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直動システムが開発されるまで

LMガイドイメージ

イラクに現存し、B.C.650 年ごろからのものと推定される大きな浮彫には、重量物を運搬するために「ころ」を使用した絵が描かれています。このことから、人間が滑り運動に対して、ころによる転がり作用の利用を考えついてから、既に2500年以上になることがわかります。 
また、ローマ近くの湖から引き上げられた A.D.50年ごろのものと推定される皇帝の船から、今日の転がり軸受に近い形をしたスラスト軸受が発見されていますが、このことから見て、かなり以前から転がり軸受けの原理が「技術」として実用されていたことがわかります。 
ダンプカーもクレーンもなかった時代に、このように重量物を遠距離運搬するのに、人間の力だけで運んだことを考えると、この図のように重量物の下にころを敷いたことに秘密があるようです。

LMガイドイメージ2

このことについて少し考えてみましょう。図1の様に 1,000kgの物体を地面に置き、これを引っ張ろうとすると何kgの力で引くことができるでしょうか。 
50kg、100kg、300kg、1,500kg などと答えは様々考えられるでしょう。

どうしてこの様にたくさんの答えが考えられるのでしょうか?

それは引くことのできる力がその物体が接している接触面の状態によって異なるからです。接触面が普通の舗装道路であれば300kg、その上に砂粒等があれば50~100kg、柔軟な面であれば 1,500kgという様になります。このように静止している物体に力を加えるとき、まさにすべりだそうとする極限の摩擦力を、最大静止摩擦力といい、単に摩擦力というときには、多くの場合これを指します。

LMガイドイメージ3

図3 のように摩擦力 F は、物体の垂直方向の分力 N に比例して

F=μN

で表されます。μは比例常数で、接触する物体と接触面の状態で決まり、これを摩擦係数といいます。  
では、図2のように 1,000kgの物をころを介して地面上を転がした場合何kgで引くことができるでしょうか?(ころがりの摩擦係数は、0.001~0.003 とします。)

解 答
前述した式に当てはめると
μ … 0.001 ~ 0.003
N … 1,000kg
であるから、上式にあてはめると
F = (0.001~0.003)×1,000kg = 1~3kg
となり、1~3kgの力で引くことができます。

図1の様な状態の摩擦係数をすべり摩擦係数、同様に図2はころがり摩擦係数といい、後者はころをボールに変えても同じ結果になります。この、ころやボールのことを「転動体」といいます。  
普通、すべり摩擦係数はころがり摩擦係数の10~20倍です。一方、流体接触といって油等の流体で浮かされている状態では、ころがりとほとんど同じですが、常にこの状態を保つことが難しく、部分的に金属すべり接触をおこすために、摩擦係数が μ=0.15~0.3と大きく、しかも変動してしまいます。そのためにころがりが多く利用されているのです。  
このように、転動体を入れることによって重い物を非常に軽く動かせることが太古からわかっていながら、現在のようなベアリング(軸受)として商品化され始めたのは非常に新しく、100年位前のことです。

何故もっと古くに開発されなかったのでしょうか? 転動体は材料が同じであれば、直径の大きいもの程つぶれにくく、直径が小さいと小さな力でつぶれてしまいます。マッチの軸、鉛筆、丸太を比較してみるとわかりやすいでしょう。 
このようなことから、従来からあった木材や銅などでベアリングを作ると、ある重さを支えるためには転動体が大きくなってしまい、ベアリング全体が非常に大きくなり、ともすれば機械本体ほどの大きさになってしまうため、開発に至らなかったわけです。

ところが約110年位前に鋼(はがね)が発明されました。鋼というのは熱して急冷すると非常に硬くなり、つぶれに対して非常に強くなるものです。従って丸太に相当する位の強さが、非常に小さな転動体で支えることができるので、これを使ってベアリングを作ると非常に小型になり、使いやすくなったために今日のように普及したのです。 
即ち、ベアリングの歴史は鋼とともに始まった、と言っても過言ではありません。

ベアリングは軽く動くほかに、次のように多くの利点をもっており、その目的に応じて利用されています。
単列深溝玉軸受け

単列負深溝玉軸受け
(1) 動力の節減が大きい
  先に延べたように、重力を支えている部分がスムースに動くため、力の損失が少なくて済み、また小さな力で重いものを運動させることが可能です。
(2) 起動抵抗が小さい
  機械は動き始めに非常に大きな力を必要とします。これは、止まっているものが動き始めるときには、すべり摩擦でもころがり摩擦でも動いている時の3倍位の抵抗(起動抵抗)があるためです。なお、すべりの場合には停止しているとその重量のために油が十分にいきわたらず、固体接触または半流体接触となるため、更に起動抵抗が増します。 
これに比べ、ころがりは、はるかに小さく設備動力も小さくて済み、経済的です。
(3) 潤滑油の節約ができます
  ベアリングはすべり軸受に比べて潤滑油が非常に少なくて済み、またグリースを使用できるため更に節約できます。
(4) 摩耗が少ない
  すべりは液体摩擦と半液体摩擦を繰り返すため、摩擦はさけられませんが、ころがりは異物の混入さえなければほとんど摩耗しません。
(5) 維持費が安い
  毎日の点検、給油等の手間がかからないため、維持費が安くつく上、保守のための人件費もかからなくなります。
(6) 製品の品質が良くなります
  ベアリングはころがりのため、すべり軸受けに比べて摩耗が非常に少なく長時間にわたって機械の精度を維持出来ます。従って優秀な製品品質の維持が可能になります。

さて、約110年前に開発されたベアリングはボールを転動体としたボールベアリングでした。そして、ころ(特に細い針状ころ)を転動体としたニードルベアリングが当社創業者 寺町博によって開発されたのは、1950年代の話です。

Needle Bearing ニードルベアリングは従来のボールベアリングに比べ、小型、軽量でしかも重荷重、高速回転に耐えられる特長を持っていたため、急速に普及しました。 
中でもホンダ、ヤマハ、スズキ などのオートバイメーカーに数多く採用されました。 
日本のオートバイメーカーは、昭和30年代から世界に知られるようになってきましたが、ホンダがマン島レースで優勝してからは、一躍世界に注目されて普及していったのです。 
実は、この影には、ニードルベアリングの貢献が大きかったのです。それまで4,000回転が限度だったエンジンが、ニードルベアリングの使用により8,000回転まで可能となり、同じ排気量でも7割増の馬力が出せるようになったのです。

機械の運動部は回転運動と直線運動の組合せで成り立っていますが、今までお話してきたベアリングは回転運動用を指します。回転運動用の軸受は110年以上の歴史を持ち、今では広く浸透し、回転運動部のほとんどにベアリングが使われています。私達の身の回りでも自動車のエンジンなど多くのベアリングが使われていますし、ビデオデッキのモーターや、ローラースケートなど使用用途は多岐にわたっています。

ところが、直線運動部は、ころがり化すれば多くのメリットがあることがわかっていながら、なかなか開発、製品化されませんでした。機械のメカニズムの中で、直線運動部を作ることが一番難しいのです。ここで何故直線運動部を製作するのが難しいかを考えてみましょう。

直線運動部に要求される条件を列記すると次の点がポイントとなります。

(1) あらゆる方向に高剛性があって軽く動くこと。
  (2) 軽く動き、位置決め精度が得られやすいこと。
  (3) トータルコストが安価であること。
  (4) 寿命が長く精度維持が可能なこと。
  (5) メンテナンスが容易なこと。
  (6) 省エネルギーに貢献でき、経済メリットがあること。
  (7) 上下・左右方向の精度が出し易いこと。

ちょ駆動システムLMガイド 直線運動部の製作において最も難しい問題は、以上のような諸条件を同時に満足させねばならないことです。一部の機械を除いて、ほとんどの機械がこれらの条件を必要とするために、この問題をいかに解決するかが直線運動部の長年の課題でした。当社の「直動システム」はこれらの課題をすべてクリアにするために開発されたのです。

「直動システム」の開発により、日本のNC工作機械、半導体製造装置、産業用ロボット等の各種メカトロニクス機器は大幅に性能を向上させ、世界に認められる日本の産業界を作り上げてきたのです。

かつては、日本の工業技術は欧米先進国からの基本技術導入に支えられてきました。回転用ベアリングも今日の形に近い物を最初に開発したのは、現在世界一のベアリングメーカーであるスウェーデンのSKF社です。 
しかしTHKでは、昭和46年4月の会社設立以来、独自の技術により直線運動のころがり化に取り組み、一つ一つ難問を解決し、昭和48年に直線運動にころがりの利点をフルに生かした、直動システムの開発に成功しました。そして今日まで、ユーザーニーズに合った数々の新製品を開発し、市場に投入してきたことにより、直動システムのトップメーカーとしての地位を確立してきました。

しかし直動システムは開発されてから日が浅いため、日本はもとより海外にも大きな未開拓市場が残されています。 
この市場を開拓し、常に直動システムのトップメーカーであり続けるために、THKは、耐久性に優れ(Toughness)、かつ高品質(High Quality)な製品を、蓄積されたノウハウ(Know-how)を活用して、提供し続けてまいります。

  T --- Toughness
H --- High Quality
K --- Know-how