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トップメッセージ

「ものづくりサービス業」として、産業界全体の価値協創を目指す THK株式会社 代表取締役社長 CEO 寺町彰博

THKのサステナビリティ経営

当社は「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」を経営理念に掲げ、創造開発型企業としてお客様や市場の求める価値を創造・提案することで持続可能な社会の実現に尽力してきました。例えば、当社が開発した直線運動部の“ころがり”化技術は、従来の“すべり”運動に比べて電気使用量や潤滑油の削減につながり、その後開発したリテーナ技術はより環境に優しい製品を実現しています。さらに、長年にわたり蓄積した技術をもとに免震装置、風力発電装置、非接触ロボット等の新規分野向けの製品を開発し、市場に投入してきました。これらの点から「本業こそがサステナビリティの実践である」と自負しています。
さて、サステナビリティの視点から当社の企業活動を見つめると、エネルギー消費やCO2の排出といった「負の影響」と当社製品が直接的にサステナビリティに貢献できる「正の影響」の2つの側面があります。そこで、「負の影響」の最小化と「正の影響」の強化に努め、社会との共通価値の創造につなげていくことを当社のサステナビリティ経営の基本姿勢としています。その考え方のもと、ステークホルダーとの良好な関係性を重視し、CSV*1を実践しながらSDGsで掲げる社会課題の解決に向けた活動に積極的に取り組んでいます。
2022年10月には、サステナビリティ経営のさらなる強化に向け、サステナビリティ委員会を設置(下部組織としてサステナビリティ推進部会を併設)し、マテリアリティの再特定と活動項目の洗い出しを実施しました。また、2023年2月には、TCFD提言への賛同表明および3月にHP上で開示を行っています。

事業環境と今後の見通し

昨今は「VUCA*2の時代」と言われる先の読めない状況が続き、経営者にはベストを求めて考えあぐねるのではなく、ベターで構わないからすぐに実行するという姿勢が求められています。速やかに決断し行動を起こし、結果をもとにモアベターを考えて次の展開を図る。その繰り返ししかないと思っています。
特に近年では、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、社会環境の変化を踏まえた事業体制の見直しに注力してきました。非接触・非対面という社会の要請により、経済活動全体が停滞するというマイナス面はあったものの、自動化やデジタル化ニーズが促進されるという意味では追い風になりました。当社は他社に先駆けてグローバルレベルでコロナ対策を徹底しつつ生産能力の増強も進めた結果、需要の拡大を着実に捉え売上収益につなげることができました。しかしながら2022年のウクライナ問題により世界的に資源や物資の供給が停滞するとともに、物価高を抑えるための金利引き上げによって投資活動が減退するという事態もありました。
グローバルなサプライチェーンが分断されるなか、企業には従来のグローバル最適な生産・供給体制から、消費地に近いエリアで調達・生産する体制づくりへの転換が迫られつつあります。当社は従来からグローバル展開による需要地生産を基本としており、エリアごとの現地調達体制を構築してきたため、今回のような供給停滞の影響を最小限に抑えることができました。2021年11月に稼働したTHK India(インド)の新工場でも設備の導入を前倒しで進めており、今後も生産品目の拡大を予定しています。また、中国ではTHK常州およびTHK遼寧、日本ではTHK新潟の工場敷地内に新棟を建設する等、引き続き供給体制の強化を進めています。
今後の見通しについては、サプライチェーンの停滞が解消されるにつれて自動化ニーズに対応するための投資も加速し、意外に早く需要が回復するのではないかと考えています。ただし、それにはウクライナ問題のような国際的な対立が緩和・縮小に向かうことが条件になります。当社は引き続きグローバルかつ多角的な視点に立って、ビジネス環境の変化を見据えてまいります。

2022年度を振り返って

こうした外部環境のもと2022年度の業績を振り返ると、産業機器事業と輸送機器事業という当社の両事業の特性が大きく表れた一年だったと言えます。
まず、売上収益の約7割を占める産業機器事業では、非接触での社会・経済活動を可能にするための自動化・省力化ニーズが広がり、半導体製造装置等のエレクトロニクス関連、そしてEV関連の投資の拡大を背景に当社製品の需要が大幅に拡大しました。
一方、残る約3割を占める輸送機器事業では、顧客である自動車メーカーの半導体等の部品調達不足や中国の一部地域におけるロックダウンの影響による減産、鋼材価格やエネルギー価格の上昇等が売上収益、営業利益に大きく影響を及ぼし、136億円の減損損失を計上しました。
これらの結果として、連結売上収益は前期比23.7%増の3,936億円、営業利益は同13.8%増の344億円となりました。株主の皆様への配当は、減損損失の影響を除いたベースで通期の配当性向が期初計画の30%となるよう期末配当を50円とし、年間で過去最高となる87円(配当性向50.4%)としました。
2023年度はエレクトロニクス関連を中心とした短期的な需要の調整等により減収減益の見通しとなっていますが、産業機器事業では中長期的な拡大が見込まれる需要をしっかり取り込むべく様々な取り組みを推し進め、輸送機器事業では事業再編を通じた収益性改善と黒字転換の定着化を図るとともに、2024年度以降の利益成長の実現に向けて、既存製品の付加価値の向上と次世代自動車部品の拡大を図っていきます。

事業別の業績推移
事業別の業績推移

成長戦略

当社は2026年度を最終年度とする5か年計画を策定し、売上収益5,000億円、営業利益1,000億円の達成を経営目標として掲げています。これらの目標に加え、当社が最も重視するのが市場シェアです。なぜなら、シェアトップの座を確保することでお客様のニーズを他社よりも多くタイムリーに入手し、それを真摯に受け止めて商品開発を行うことで競争力を高めることができるからです。私が日頃、社内で「業界トップでなければ、いくら利益が高くても長期的に考えたら駄目」と言い続けているのも、このためです。今後も事業領域の拡大に向けて「グローバル展開」「新規分野への展開」「ビジネススタイルの変革」を3本の柱とした成長戦略を強力に推進していきます。
まず「グローバル展開」について、将来は国内市場の縮小が予測される一方で、世界市場はさらなる需要の拡大が見込まれます。いずれ国内売上は2割以下になると見込んでおり、前述したインドや中国での生産体制の強化をはじめ、世界各地での需要地生産・販売・開発をさらに強化していく考えです。
次に「新規分野への展開」ですが、従来の生産財向けだけではなく、自動車、医療機器、鉄道、航空機といった消費財に近い分野に加え、免震・制震装置、再生可能エネルギー関連等の自然災害や気候変動リスクを低減する分野に当社製品を提案していく考えです。さらに、生産年齢人口の減少を背景に、物流、小売店、レストラン等のサービス産業の省力化に貢献できる製品・技術開発を進めています。
最後に「ビジネススタイルの変革」については、ビジョンとして「ものづくりサービス業」を掲げ、“ものづくり”だけの「売り切りモデル」ではなく、ビフォーサービスからアフターサービスも含めたトータルのビジネスとして展開し、機械メーカーのみならず機械を使用されるエンドユーザーの方々との接点を拡大するため、様々な取り組みを推し進めていきます。

THKの経営
THKの経営

ICTによる協創を拡大

「ものづくりサービス業」への進化を実現するにはICTやデジタル技術の活用が必要不可欠であり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みを推進し、ビフォー/アフターサービスの強化を図っています。
ビフォーの部分ではお客様とのコミュニケーションプラットフォーム「Omni THK」の活用に注力しています。製品検討、形番選定、見積依頼・取得、図面データやCADデータの検索・ダウンロード、さらには発注や納品まで幅広い情報をタイムリーに共有・活用することで、お客様と当社、双方の業務効率化、生産性向上を実現します。
アフターの部分では機械要素部品にセンサを設置して故障の予兆を検知する製造業向けIoTサービス「OMNI edge」を導入いただくことで、お客様の製造現場で発生する各種ロスを削減し、設備総合効率(OEE3)の向上に貢献していきます。
これらのサービスは、お客様の業務効率化やスピードアップ、当社との連携強化はもちろん、冒頭で述べたサステナビリティ視点における「負の影響」の最小化と「正の影響」の強化にもつながります。例えば、「Omni THK」による情報共有が広がることで、不要な移動を最小限にすることができ、自動車等の利用に伴うCO2排出の抑制にもつながります。「OMNI edge」については、単に部品の稼働状況を“見える化”するだけでなく、そこに使われている潤滑油やエネルギー等を削減するとともに、壊れることによって発生する損害を最小化することで「社会に無駄なものを発生させない」効果があります。
近年はIoTへの理解が進み、導入を計画するお客様が増えています。当社のサービスは「新たな設備と仕組みを準備しなければIoTを実現できない」ものではなく、既存の製品にセンサを取り付け、それをネットワーク上のプラットフォームと組み合わせれば簡単にIoT化が実現できるものです。今後も同様な付加価値の高いサービスのラインナップを拡充することで、当社が社会貢献できるハードの製品群と相まって、多くのお客様に喜んでいただきながら、持続可能な社会づくりに大きく貢献していきたいと考えています。これこそが「ものづくりサービス業」を通じて実現したいことなのです。

価値創造を実践する人財育成

DXの取り組みは、お客様に提供するサービスのみならず、社内のワークスタイルにも変革をもたらします。現在、当社では「人が行うべきこと」と「コンピュータやロボットに行わせること」を明確化し、後者については積極的に代替を進め、従来の業務スタイルの見直しを図っています。
将来的には自動化やロボット化が進むことで、生産現場のオペレーターは不要になっていくでしょうが、機械やロボットでは代替できない緻密な作業を担う“職人”のような技能工や機械やラインの構成を最適化する生産技術者等は、生産現場での重要性がさらに高まるでしょう。また、ICTの発達に伴いデジタル技術を駆使して新たな仕組みやサービスを創出する”デジタル人財”の必要性が高まっています。そこで、オペレーターとして働いてきた従業員には、技能工や生産技術者としての能力を高めるかデジタル人財への転換を図ることで自身のレベルアップを目指してもらいたいと考えています。会社としても、これらを支援する研修を充実させるとともに、評価制度の見直しも検討していきます。実力主義に近いといいますか、現場にどれだけ貢献できているかがより一層問われますし、その働きに見合った報酬体系も必要になってくるでしょう。
大事なのは、「THK」というブランド名に込めた3つの要素、すなわち“Toughness”、“High Quality”、“Know-how”を従業員一人ひとりが確実に実践し、いかにお客様のお役に立てる付加価値を提供できるかです。従って当社では、従業員一人ひとりに入社時からこの3つの要素を徹底的に教え込んでいます。
また、次世代を担う人財の育成は、社内に限らず産業社会全体の課題です。当社は2021年4月に創立50周年を迎えました。そこで創立50周年記念企画として長年培ってきた知見やノウハウを活用し、産業界での人財育成に向けて2017年度から中学生・高校生を対象に「創造開発型人財」の育成を目指す「THK共育プロジェクト」、また2021年度からはスタートアップ企業を対象に技術支援サービス「アントシェルパ」を開始しています。

価値協創で産業の持続的発展をリードする

当社は100年企業に向けて、今まさに新たな一歩を踏み出したところです。長きにわたり会社を存続できたことは、ひとえにステークホルダーの皆様のご支援の賜物であり、この場をお借りして感謝申し上げます。
当社の創業者から言われた「将来の夢や目標に向かって、今、成すべきこと、今、やらなければならない事に対し最善を尽くす」という言葉を常に心に留めており、社内でも折に触れて取り上げています。「今を最善に」するためには、将来像をしっかりと描く必要があり、先の見えにくいVUCAの時代にあっても変化には即座に対応しつつ、目先の収益だけを追うのでなく10~20年といった長期的な視野を持つことが大切です。
当社の製品がお客様のもとで長きにわたって働き続けるように、当社は長期的な視野を持ち続けてきたからこそお客様との信頼を培い、今日まで成長してこられたと思っています。お客様とのシナジーや価値協創は、長期的な信頼関係のもとで初めて生まれるものです。今後も産業界や、それらを取り巻く地球環境の将来を見据えながら、産業社会の持続可能な発展に尽力してまいります。

*1 CSV:Creating Shared Valueの略。社会的な課題を自社の強みで解決し、企業の持続的な成長へとつなげていく戦略。

*2 VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、将来予測が困難な状態を意味する。

*3 OEE:生産設備の効率を上げるために用いられる指標。