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設計者が見落としがちな「動剛性」~静剛性だけでは装置性能に限界がある理由~

機械と測定データ

近年、半導体製造装置をはじめとする先端産業分野では、装置性能の高度化がかつてない速度で進んでいます。半導体デバイスの微細化は急速に進み、最先端ロジックでは2 nm世代に到達しています。配線幅は数十原子レベルに近づき、数nmの位置誤差やわずかな振動でさえ製品歩留まりに直接影響を及ぼす領域に入っています。露光装置や検査装置ではナノメートルオーダーの位置決め精度が求められ、さらにスループット向上のために加速度1 G(重力加速度=約9.8 m/s²)を超える高速搬送が一般的になりつつあります。結果として、わずかな姿勢変化や微小振動が製品品質や生産効率に直結するため、これらを制御する設計が極めて重要になっています。今回はこのような背景から、動剛性という設計の視点について解説します。

半導体に限らない高速・高応答化と、装置性能を左右する動的挙動

微小な振動・変形・姿勢変化による影響を抑え、狙い通りの動きを実現するための設計傾向は半導体分野に限りません。例えば工作機械では、高速主軸回転数は毎分2万〜4万回転に達し、高速送りも毎分数十mに及んでいます。産業用ロボットにおいても、サイクルタイム短縮に向けた高加減速化が進み、ミリ秒単位の応答性が求められるようになりました。さらに自動化装置や精密搬送装置においては「高速・高応答・高安定」を同時に満たすことが競争力の源泉となり、装置性能そのものが企業価値を左右する重要な要素となっています。
このような背景から、直動システムを中心とした装置の動的挙動は、装置性能を左右する主要因として重要性が一層高まっています。例えば、数µm以下の微小な振動や共振現象であっても、加工面品位や形状精度の悪化を招くだけでなく、高速化や高精度化を阻害する要因となります。

装置に共振しやすい特性が存在すると、振動を回避するために加速度や移動速度を抑えて運転せざるを得ません。つまり、装置が本来持つ能力を十分に引き出せなくなり、結果として生産性や精度の向上に限界が生じます。一方、市場競争の激化により、装置開発期間の短縮要求はかつてなく強まり、従来のような試作と評価を繰り返す開発プロセスでは、要求性能と開発スピードの両立が難しくなりつつあります。今後は設計初期段階から装置全体の特性を見据えた開発体制の構築が不可欠です。

製造現場での挙動確認

装置性能を支える3つの剛性―その中で見落とされがちなものとは

装置設計において重要となる剛性には、静剛性熱剛性動剛性の3つがあります。これらは独立した概念ではなく、装置性能を総合的に左右する基盤要素として相互に密接に関係しています。
静剛性は、外力に対する変形のしにくさを示す指標です。切削力や搬送荷重による変形を抑制するための基本設計要件であり、静剛性が不足すると荷重作用時に幾何精度が維持できず、加工誤差や位置決め誤差の直接的な原因となります。このため、構造設計や材料選定の段階から広く意識されています。
熱剛性は、温度変化による熱変形への耐性を示す概念です。装置運転中にはモータや主軸の発熱、環境温度変化により温度分布が変化し、構造体には熱膨張が生じます。これが位置ずれや姿勢変化を引き起こし、長時間運転時の精度低下につながるため、熱源配置や冷却設計、温度分布の均一化などが検討されています。

静剛性や熱剛性が広く意識される一方、動剛性は、時間的に変化する外力や振動に応じて、構造物が変位や振動を抑制する能力を示す概念です。工作機械や半導体製造装置では、モータの回転、駆動系の加減速、切削や搬送時の反力などにより様々な周波数成分を持つ動的荷重が発生します。構造物の固有振動数とこれらの励振周波数が近づくと共振が発生し、わずかな外力であっても大きな振動や変位を生じる場合があります。

動剛性が不足すると、加工面のびびり振動や位置決め精度の低下、搬送時の残留振動によるタクトタイム悪化などを引き起こし、製品品質や生産性に直接影響を及ぼします。近年、その重要性は強く認識され始めていますが、静剛性や熱剛性に比べて設計初期から体系的に取り組まれている例はまだ多いとは言えません。とりわけ高速・高加速化が進んだ現在の装置では、静剛性を十分に確保しても、動的な振動・共振によって性能が頭打ちになる場面が増えています。静剛性を満たすことが「前提条件」だとすれば、その先の性能を決めるのは動剛性だと言えます。

機械設計における各要素が、装置構成上必要不可欠な役割であることを示した図

振動・品質・サイクルタイム問題の「本当の原因」

装置を稼働させたら振動が止まらない、加工品質が安定しない、サイクルタイムが縮まらない。こうした問題の多くが、設計段階での「動剛性」の見落としに起因している可能性があります。
現在の装置は高速化・高加速度化が進み、構造体には短時間で大きく変動する力が繰り返し作用します。静的変形が小さくても、共振や振動増幅によって加工面品位の低下、びびり振動、位置決め誤差の増大、制御不安定化が発生する可能性があります。動剛性は単一部品で決まるものではなく、装置全体の構造・接合部の剛性・減衰特性などが複合的に影響するため、試作後に個別対策を講じるだけでは対応が難しくなる場合が多いです。
そして開発現場では、振動問題が顕在化してから対策が検討される「後追い型」の対応が依然として少なくありません。結果として、手戻りや開発期間の長期化、さらには性能限界の早期到達といった課題が生じます。これに対し設計段階から動剛性を考慮することで、共振回避や振動低減を事前に検討でき、装置が本来持つ性能を安定して引き出すことが可能です。ただし、動剛性は経験や勘で把握できるものではありません。定量的な評価と可視化があってはじめて、設計判断の根拠となります。だからこそ、装置全体を対象とした動剛性の評価と可視化が今の設計現場に求められています。

動剛性を「見える化」すると何が変わるか

動剛性が厄介なのは、「目に見えない」点にあります。静剛性であれば、荷重をかけた際の変形量として直接評価できますが、動剛性は装置全体の構造・接合部・減衰特性が複合的に絡み合うため、設計者が「なんとなく振動が多い気がする」と感じていても、どこが原因で、どの周波数帯に問題があるのかを特定できなければ、対策の打ちようがありません。
動剛性を定量的に評価し可視化することで、これまで見えなかった事実が浮かび上がります。例えば、どの周波数で共振が起きているか、装置のどの部位が変形しやすいか、振動がどのように伝達・増幅されているか、といった情報を具体的に把握できます。これらが明確になることで、対策の優先順位が定まり、設計変更にも根拠が生まれます。さらに、「この設計で問題ないか」という判断を経験や勘に頼るのではなくデータに基づいて行えるようになります。
加えて、こうした評価を継続することで、得られた知見は目の前の1台にとどまらず、自社の設計標準・技術資産として積み上がっていきます。結果として、次機種における判断精度が向上し、設計者の技術力そのものの底上げにもつながります。

動剛性を設計思想として組み込む次の装置開発へ

こうした課題と要望を踏まえ、今後は実機測定による評価に加えて解析サービスの展開を進め、装置開発の初期段階から動剛性を考慮できる支援体制を構築していきます。設計段階で動特性を予測し、試作前に課題を抽出できる環境を整えることで、手戻り低減と期間短縮に貢献します。さらに、測定と解析を連携させた循環型の技術活用により、個別案件にとどまらない装置性能の継続的な向上を支援していきます。動剛性を設計思想として取り入れることこそが、高精度・高速化が求められる時代において競争力を分ける決定的な差になります。

こうした取り組みを具体的に支援するのが、THKの動剛性評価サービス「DYNAS」です。DYNASは、実機を用いた評価により「見えない挙動」を可視化し、設計改善に直結する知見の獲得を可能にします。
まずは、自社装置の動剛性がどのような状態にあるのか、お気軽にご相談ください。

動剛性測定DYNASの詳細はこちら(THKサイト)
「動剛性測定・DYNAS」の正式受注を開始 ~装置の振動特性を可視化・明らかにし、装置開発の課題解決に貢献~ 【ニュースリリース】(THKサイト)

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