
機械要素部品は、工作機械などの装置の機能や性能を支える基盤であり、装置全体の動作や耐久性、効率性に直接的な影響を与えます。例えば、軸受、歯車、ボルト・ナットなど、個々の部品はそれぞれ特定の機能を果たし、複雑な装置が正確かつ安全に動作するために不可欠です。
中でもLMガイドは装置の精度、動作の安定性、効率性を担い、多様な用途に展開されている重要な部品です。製品開発では、精度、安定性とともに耐久性・信頼性を保ちつつ、お客様の多様な要求に応え、早期に市場投入することが求められるため、開発・設計期間の短縮が重要課題です。
一方で、製品開発の現場では「設計の手戻りが減らない」「試作・評価に時間がかかる」「開発期間を短縮したい」といった課題が存在しています。特に、開発後半で問題が発覚し、設計に戻る「手戻り」は、開発期間やコストに大きな影響を与える要因となっています。こうした課題に対し、設計段階で問題を予測し対策を講じるアプローチとして、CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)の活用が注目されています。今回は、課題解決への取り組みとしてCAEを活用した製品開発を紹介します。
CAE(コンピュータ支援エンジニアリング)とは
Computer-Aided Engineering(CAE:コンピュータ支援エンジニアリング)とは、コンピュータを活用して工学的な解析やシミュレーションを行う技術・手法の総称です。主な解析分野としては、製品の強度・変形・応力を評価する「構造解析」や、時間的な変化を考慮した挙動・衝突を評価する「動的解析」などがあります。コンピュータ上でシミュレーションすることで、製品を製作する前に性能を評価できるのが最大の特長です。


言い換えると、CAEは「試作・評価のプロセスをデジタル上で先行実施する技術」です。これにより、従来は試作後に判明していた課題を、設計段階で把握できるようになります。
製品開発におけるCAE活用
従来の製品開発では、「設計→試作→評価試験」のサイクルを実際に試作しながら評価を行います。このサイクルは開発品が合格するまで行われ、開発完了までには長い期間と費用が発生することもあります。そこで、製品開発にCAEの活用が必要になります。CAEを活用する利点は、製品設計の早い段階で問題を発見し修正することができ、試験や試作の回数を削減することも可能なことから、開発期間の短縮や費用の削減ができる点です。 また、実際の使用環境に合わせた負荷条件や再現することが難しい条件の試験をシミュレーションすることで、製品の潜在的なリスクを発見し製品の安全性や性能向上に貢献することができます。このことからCAEの活用で、耐久性・信頼性を保ちつつ開発期間の短縮が見込めます。

LMガイドにおけるCAE活用事例
LMガイドの構造と循環部品の役割
ここでは、LMガイドの高速化に向けた循環部品の開発においてCAEを活用した事例を紹介します。
LMガイドは、主に「LMレール」「LMブロック」「ボール(転動体)」の3つの要素から構成され、転動体がLMレールとLMブロックに挟まれた状態で転がることで滑らかな直線運動を実現しています。また、LMブロックの両端には転動体の進行方向を反転させる循環部品が取り付けられており、転動体が無限循環することでレール上をLMブロックが自由に往復運動できます。

高速化に伴う開発課題
LMガイドを高速で動かすために重要なのが循環部品です。これは、循環部品が繰り返し転動体から衝突荷重を受けており、強度と耐久性が求められるためです。高速になるとより大きな衝撃荷重を受けることになり、高速に対応できる循環部品の開発・設計が必要になってきます。しかし、高速でLMガイドを動作させた際の循環部品に作用する衝突荷重を机上で求めることは難しく、信頼性を向上させるには試作評価を重ねる必要があるため、開発が長引くことが懸念されていました。
CAEによるアプローチ:機構解析 + FEM構造解析
そこで、本製品開発では動的挙動を評価できる機構解析と、応力・変形を評価できるFEM構造解析をCAEとして活用しています。機構解析では、シミュレーション上でLMガイドを高速で動かし、実際には観察が困難な転動体の循環挙動や循環部品に転動体が衝突した際の接触箇所、作用荷重を把握することができます。これにより、試作品を製作せずとも製品の性能や課題となる箇所の推測が可能であり、事前に対策を練ることで開発スピードが向上します。
総ボールLMガイドの挙動シミュレーション
ボールリテーナ入りLMガイドの挙動シミュレーション
さらに、構造解析では機構解析で得られた情報を基にシミュレーションを行うことで、より使用状態に近い条件で循環部品に生じる応力を把握することができます。そのため、循環部品の強度や耐久性を試験せずとも推測することが可能であり、試験期間の短縮と循環部品の信頼性向上が望めます。

このようにCAEを活用することで製品の性能や安定性、耐久性と信頼性を保ちつつ、開発期間を短縮し、製品を市場に早期に投入することが可能になります。
CAE導入がもたらす変化と技術者への価値
CAEの活用により、製品開発の進め方そのものにも変化が生まれます。従来は試作・評価の結果を踏まえて設計を修正する「後追い型」の開発が中心でしたが、CAEを活用することで設計段階の課題を予測し、事前に対策を講じる「先行型」の開発が可能になります。その結果、設計の手戻り削減や試作回数の低減につながり、開発期間の短縮と品質の安定化が実現されます。また、CAEの活用は、開発プロセスの効率化だけでなく、技術者の設計業務にも大きな変化をもたらします。
これまで見えにくかった内部の挙動や負荷の分布を可視化できることで、設計の根拠が明確になり、判断の精度が向上します。また、設計段階での検証が可能になることで、より高付加価値な設計検討に時間を割くことができます。CAEは単なる解析ツールではなく、設計の質を高めるための重要な手段といえます。
CAE活用の広がりと今後の展望
CAEは機構解析・構造解析に留まらず、熱流体解析や音響解析など幅広い分野に対応しており、製品開発だけでなく製造工程の改善などにも活用できると考えています。THKにおいても、CAEの活用領域を拡大し、製品性能の向上と開発効率の両立を図ることで、お客様により高品質な製品を迅速に提供できる体制の構築を進めています。
開発や設計における手戻り削減と期間短縮は、多くの製造業に共通する課題です。その解決に向けた有効な手段として、CAE活用の重要性はますます高まっています。まずは、自社の製品や設計プロセスの中で「どの部分にCAEを活用できるか」を検討することから始めてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が、開発効率と品質の両立につながります。
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