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LMガイド高精度化のための数値シミュレーション技術とは

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数値シミュレーションのイメージ図


LMガイドが現在の形になって市場に登場したのは1973年です。すでに発売から50年以上が経過しており、これまでに工作機械をはじめ、あらゆる分野で採用され、瞬く間に世界に浸透しました。今日では「直動案内といえばLMガイド」として当然のように使用されています。しかし、この間の市場拡大に伴うニーズの変化により、サイズの拡充や製品コンセプトの多様化が進み、さらには各種オプションとの組み合わせを考えると、LMガイドは膨大なバリエーションを持つ製品群となりました。一方で、LMガイドを使うお客様の立場からすると、寿命や剛性といった性能や寸法制約、さらにはコストおよび納期といった様々な条件を踏まえたうえで、膨大な製品群のなかから最適なLMガイドを選定し、要求を満たす機械を作り上げることが課題となっています。このような状況に、我々メーカーとしても、様々な形で技術サポートを行っています。

今回は、製品開発とは少々異なる視点から、LMガイドの数値シミュレーションに焦点を当て、その高精度化への取り組みおよび利用技術について紹介します。

数値シミュレーションの要、「負荷分布理論」

LMガイドに求められる性能は何かと問われると、走行精度と剛性、寿命が挙げられます。これらの性能をシミュレーションするためには、まずLMガイド内に組み込まれている個々の転動体(ボールやローラー)それぞれに作用する荷重を知ることがその第一歩となります。そして、それぞれの転動体に作用する荷重を計算する理論が負荷分布理論です。


FEMによる負荷分布理論の精度向上

負荷分布理論では、幾何学と材料力学から転動体と軌道面の接触部の弾性変形量を求め、Hertz(ヘルツ)の接触理論により転動体に作用する荷重を計算します。ここで重要となるのがLMブロックやLMレールの変形です。特にLMブロックは複雑な形状をしており、単純な材料力学では変形を正確に計算できません。そこでFEM(Finite Element Methodの略で、有限要素法のことで数値解析手法の一つ)を適用することで解析精度の向上を図っています(キャリッジFEMモデル負荷分布理論)。また、負荷分布理論を用いた応用解析を行う場合、解析時間も問題となります。キャリッジFEMモデル負荷分布理論と同程度の解析精度が得られ、かつ解析時間を大幅に低減した解析理論(キャリッジ剛性近似モデル負荷分布理論)の開発も行っています。

下の図は開発した解析理論を用いて剛性をシミュレーションした結果ですが、従来理論と比べて実測値によく合致していることがわかります。

負荷分布理論の剛性シミュレーションは実質値によく合致しているイメージ

負荷分布理論の剛性シミュレーションは実質値によく合致



LMガイドの走り精度向上に貢献する応用解析例

負荷分布理論を基にLMガイドの走り精度を解析した例をご紹介します。1本のLMレールに2つのLMブロックが組み合わされ、質量100kgのテーブルが締結されたLMガイドシステムを想定します。LMレールの取付面には下凸の正弦波状誤差があるとします。

LMガイドの走り精度シミュレーションのイメージ

LMガイドの走り精度シミュレーション


その際の解析点における測定子先端の軌跡を解析した結果が下のグラフです。まず、与えた誤差に対して解析結果が1/3程度になっているのがわかると思いますが、これがいわゆる精度平均化効果で、取付面精度よりもガイドの走り精度が良くなる現象です。シミュレーションでこの効果をよく表現できた結果と言えます。

走り精度シミュレーションにおける中程度のうねりと小さなうねりのイメージ

走り精度シミュレーションにおける中程度のうねりと小さなうねり


そして下凸の大きな波形のなかに60mm間隔の中程度のうねりと8mm間隔の小さなうねりがあるのがわかります。中程度のうねりはレールをボルトで締め付けた際の沈み込みによる影響で、小さなうねりは転動体の循環に起因するウェービングと呼ばれる現象による影響です。


LMガイド高精度化へのアプローチ

前述の解析例では、精度平均化効果により取付面の精度よりも走行精度のほうが1/3も良くなるという結果が得られましたが、レールのボルト締結による影響とウェービングによる影響がうねりとしてあらわれ、特に取付面誤差が小さい場合にはそれらの影響が顕在化します。以下では取付面誤差2μmの場合においてこれらの影響を小さくし、より高精度なLMガイドを提案する試みをご紹介します。

まずレールのボルト締結による影響は、ボルトの本数を増やすことでうねりの低減を図りました。また、ウェービングに関しては幾つか低減方法がある中で、今回はクラウニング寸法の最適化を選択しました。クラウニングとは、LMブロックの端部に施された面取り加工であり、当社では以前よりこのクラウニングの長さと深さがウェービングに大きな影響を及ぼしていることを明らかにしています。そして、最適なクラウニング寸法を決定するために、混合水準要因計画法により抽出したサンプルデータに進化法ベースの最適化アルゴリズムを適用する手法を確立しています。

ウェービング、クラウニング深さとクラウニング長さを表した図
ウェービング、クラウニング深さとクラウニング長さ


下のグラフはレールのボルト本数を増やし、クラウニングを最適化したLMガイドで再度走り精度を解析した結果です。ボルト締結による影響が低減されるとともに、ウェービングによる影響も極めて小さくなったことがわかります。

クラウニングを最適化したLMガイドの走り精度の解析結果イメージ

クラウニングを最適化したLMガイドの走り精度の解析結果



周辺部材も含めた解析

ここまでシミュレーション技術の要である負荷分布理論と、それをもとにした走り精度解析、そしてクラウニング解析などについて説明しました。これらはLMガイドについての解析でしたが、LMガイドが実際に使用される際には、締結されたさまざまな周辺部品の影響を少なからず受け、場合によってはLMガイドの寿命を大きく左右することもあり得ます。下の図はLMガイドに締結されたベースやテーブルの変形を考慮しつつLMガイドの負荷分布を解析した例です。

LMガイドの負荷分布の解析図
LMガイドの負荷分布を解析した例


現在では締結された周辺部品のみならず、装置全体にまで解析の範囲を広げています。冒頭でも述べましたが、LMガイドにはまず、走行精度と剛性、寿命が求められています。それらの諸性能をより正確に予測するために、日々解析精度の向上に努めています。

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