2025年04月24日
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半導体をはじめとする先端製造技術に貢献!ナノメートル精度の「超精密ピエゾステージ」とは?
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超精密位置決め技術は、半導体などの先端製造装置や分析機器、そして研究開発における装置に至るまで、その目的は多彩で重要な役割を担う機械技術です。特に産業機器の中では、半導体製造装置に用いられる技術はその最たるものの1つです。今回はナノメートルレベルのアライメントに適した「超精密位置決めピエゾステージ」の技術的要素をご説明するとともに、特に半導体製造プロセスに適した製品をご紹介します。
ナノメートルの世界とは!?
ここでナノメートルについて少し触れておきます。ナノメートル [nm] とは、10−9m = 10億分の1mを表し、原子、分子レベルの超微細な世界の話になります。われわれの知る身近なもので比較してみると、いかに小さなものか直感的に分かるはずです。近年、クラウドコンピューティングや生成AI向けに開発が急がれる最先端半導体は、今や2nmへの開発競争に移行しています。

半導体を高精度化する技術とは
半導体は時代とともにデータ処理や演算能力の向上など、技術進化を遂げています。最近よく聞くAI(人工知能)に使用される半導体は、膨大な計算量に対処するため高性能化が求められます。この高性能化を支えているのが微細化という技術で、回路を細かくすることで処理速度や情報の保存量などが向上します。半導体は製造プロセスの微細化の流れの中で「世代」や「プロセスノード」と呼ばれ、○nm(ナノメートル)と表現されます。数字が小さいほど微細になり、高い製造技術が必要になります。ますます複雑化・高度化する半導体製造プロセスにおいて、前工程から後工程そして途中の検査・測定においても、ナノメートルレベルの高い精度でアライメントが必要になっています。
ピエゾステージの構成要素
ピエゾを使用したステージについてご説明します。
下図は、ピエゾステージと、産業機器で広く使われているサーボモータステージの機構の比較になります。


※構造比較のためのイメージ図です。大きさや形状は簡略化し細部の部品などは省略しています。
圧電素子・弾性ヒンジガイド・変位センサの特長
次に、各要素の特長をご紹介いたします。
小さな素子の大きな特長<圧電素子>
ピエゾステージのピエゾとは、電子デバイスであるピエゾ素子または圧電素子のことです。この圧電素子は電圧を与えることで変形(伸縮)し、逆に圧力を加えると電圧を発生する効果をもっています。圧電素子は直接目にする機会は少ないですが、様々なところで使われています。例えば、加圧による電圧発生を利用して発火装置に用いたり、圧力センサとして活用されています。一方、ピエゾステージで使用する場合は、電圧印加による伸縮の効果を利用することでアクチュエータとして用います。

圧電素子は小さいため、駆動源としてステージ本体内に納めることが可能です。サーボモータのような出っ張りが生じず、装置内部の空間的に余裕がない場所でも組み込みやすいです。
小さな電子デバイスの圧電素子(ピエゾ)は、次のような大きな特長があります。
- 超高分解能 :印加電圧を小さくすれば1nmまたはそれ以下で極微小に伸縮
- 高レスポンス:印加電圧に対する反応が速くミリ秒またはそれ以下で応答
- 大発生力 : 数百N~数千Nの発生力
また、次のような環境や用途にも適しています。
- 磁石を使っていないため電子線描画装置など非磁性環境で使用可能
- 真空内で使用可能(※真空度によります)
- 位置決め後、静止している間も自己発熱がなく熱的安定性が高い
要するに、部品を全く用いずに電圧を加えるだけで直動動作が得られ、伸長量は長さの約0.1%程度と小さいです。また、下図のグラフで示す通りヒステリシスがあるため印加電圧に対する伸長量は比例せず、高精度な位置決めには変位センサとの併用が必要になります。

転がらない精密ガイド<弾性ヒンジガイド>
ステージのガイド(案内)機構といえば、大抵は転がり案内やすべり案内のガイドを思い浮かべるのではないでしょうか?これらのガイドも様々な種類があり、実際に半導体製造装置に限らず工作機械や産業用ロボットなど多くの機械で採用されています。例えば、THKの直線運動案内(LMガイド)をはじめとする転がり案内では、摩擦抵抗を最小限に抑え、装置としてサブミクロン単位の精度を実現します。一方で、ナノメートルの超高精度を実現するためにピエゾステージで使用しているガイドは、弾性ヒンジと呼ばれる案内機構です(下図)。転がり案内ではないため内部に転動体はなく、テーブルの姿勢変化を引き起こすウェービングが発生しないのが特長です。

これは部材の弾性変形を利用した機構ですが、独自のヒンジ設計により、以下のような、微細な動きのなかでも様々な特長を備えた弾性ヒンジガイドの製作が可能です。
- 圧電素子の伸長を機械的に拡大して長いストロークを備えたもの
- 回転動作に適したもの
- 重量物の搭載でも安定して支えながら動かせるように剛性を重視したもの
- 多軸を1つの本体で実現したもの
- 本体のコンパクトさを重視したもの
ヒンジガイドの設計においてはFEMによる応力解析を行いますので、想定した使用においては塑性変形による金属破断が発生しません。当然ながらグリースも用いていないため発塵やアウトガスの発生がなく、クリーン環境や真空内でも適用できます。

位置決めの監視役<変位センサ>
ナノメートルで伸縮する駆動源の圧電素子(ピエゾ)と、ナノメートルの動きを摩擦なく滑らかに支持する弾性ヒンジガイドがあっても、最後の砦となる高精度な位置決めを実現するためには変位センサが必要です。前述にあるとおり、圧電素子にはヒステリシスがあるため印加電圧だけでは一意的に位置が決まりません。THKのピエゾステージでは「静電容量式センサ」または「歪みゲージ式センサ」を採用しています。静電容量式変位センサは非接触式で高い分解能で位置センシングでき、歪みゲージ式センサは弾性ヒンジガイドに貼ることでたわみ量から位置情報を取得できます。
それぞれ特長はありますが、以下のような場合など要求仕様によって使い分けています。
- 1nm~数nmレベルの分解能を求める場合は、静電容量式変位センサを選択
- 20nm程度の分解能でも高い再現性が求められる場合は、コストパフォーマンスに優れる歪みゲージ式センサを使用
ピエゾステージの製品例
次に、ピエゾステージのラインナップの中から、半導体プロセスにおける製造や検査・測定などで使用されている製品の一例をご紹介します。
直動ステージ
X軸、XY軸一体型、Z軸、XYZ軸一体型の4種類があり、ストロークや本体サイズなどが異なる豊富な種類から選べます。アライメントマークを画像認識しながらXY軸をナノメートルレベルで高精度な位置調整が可能です。また、平行に近接した2つのデバイスをZ軸で高精度に押圧することができます。そのほか、一辺が数十μm程度の微小なエリアを細かく多点移動しながらマッピング測定する用途においても、高精度かつ高速に移動停止を繰り返すことができます。

対物レンズフォーカス用ステージ
対物レンズのフォーカス(焦点)調整用に専用設計したピエゾステージです。対物レンズを取り付け、高速・高精度にフォーカス調整ができます。走査するウエハのわずかな起伏に追従した速いフォーカス動作や、浅い焦点深度をもつ高倍率レンズの高精度なフォーカスの微調整が可能になります。ねじ部のパーツはアタッチメントで交換可能となっているため、ねじ径の異なる各社の対物レンズを取り付けることもできます。

光学ミラーアライメントステージ
ピエゾステージは直動だけでなく傾き(チルト)の動きもできます。光学ミラーを取り付けて高精度かつ高速に角度調整を行うことで、レーザー光の高速走査や長い光路長でも照射位置を精度良く合わせることができます。またこのチルト機構を応用してウエハやチップデバイスの傾き調整をμradレベルで高精度に行うことも可能です。

お客様装置専用ステージ
上記ステージをお客様装置専用にカスタムし、唯一無二の専用ステージを設計・製造いたします。
①ステッピングモータ+ピエゾステージ
ステッピングモータステージ(5軸)とピエゾステージ(3軸)を組み合わせた、長ストロークと超高分解能を備えたステージユニットです。

②荷重センサ付きステージ
ピエゾステージと荷重センサを組み合わせた構成です。取り付けた工具の加工物への押圧力(加圧力)をセンシングすることができます。

③超精密加工機用ステージ
精密切削におけるナノ・マイクロ加工を実現するステージです。工具の切り込みやワーク(加工対象物)を高速・高精度に位置制御できます。

ナノメートルの制御と使いやすさを重視したコントローラ
高精度な位置決めステージでも、実際に装置へ組み込んで動作させる際には制御性の使い勝手の良さも重要になります。ナノメートルの超精密位置決めは、アクチュエータとしての圧電素子(ピエゾ)、案内要素としての弾性ヒンジガイド、変位量を計測するセンサ、これらの特性を高度に統合して達成する必要があります。ピエゾステージ専用コントローラは、ステージと直接接続するだけでフィードバック制御によるヒステリシスのない高精度な位置決めを行います。

ナノメールの精密位置決めに必要な機能を1台に搭載
制御回路、低ノイズドライバ、そして変位センサアンプをすべて一つの筺体に納めています。ピエゾステージと直接接続するだけでフィードバック制御によるヒステリシスのない高精度な位置決めが行えます。
コントローラの構成部品
➀インターフェース
位置決め指令を出す上位装置との制御接続として、下図のようなインターフェースを用意しています。

②ステージの動きを視覚化するセンサモニタ
内蔵センサのモニタ出力を備えているため、オシロスコープなどと接続することでピエゾステージの動きをリアルタイムで視覚化できます。目視では判断できないような状態、例えば 「位置決め完了後の整定確認」や「外乱などの要因による微小振動有無」などをモニタリングすることが可能です。

ピエゾステージを組み込んだユニットもご提案します
本記事では、ピエゾステージの特長をご紹介してきました。しかしながら、いくらピエゾステージが高精度だとしても、ピエゾステージ単体では製造装置は成り立ちません。重量物の可搬動作やメートル単位の長い移動を必要とする機構は必ず必要になります。ただ、微細化・複雑化する半導体の製造工程において、従来の機能の延長ではナノメートルレベルの超精密位置決めは困難になりつつあります。
そのような課題に対し、THKでは粗動ステージの「ユニット」と微動ステージの「ピエゾステージ」を一揃えにしたご提案が可能です。「ユニット」とは、案内・駆動部品などTHKの要素部品とテーブル、ベース、ブラケットなどの加工部品やモータ、ケーブルチェーン、センサなどの電装部品を製缶架台、石定盤などに組み合わせた製品です。粗動ステージと微動ステージを一揃えにしてご提案することにより、お客様の仕様に適したステージをご提供いたします。
位置決めの課題でお困り事があれば、ぜひ一度THKまでお問い合わせください。
THKでこんなことができるのか!?を見つけられるかもしれませんよ。