2024年09月25日
製品
高齢化、担い手対策に THKの水門遠隔操作システム
- 実証事例
- 水門アクチュエータ
世界の農業は、人類の文明の発展とともに成り立ってきました。農耕の始まりは紀元前10,000年頃の新石器時代であり、農業革命を経て農業が定着しました。異なる地域で異なる作物や栽培技術が発展し、農業文化が形成されました。また、産業革命以降の技術革新やグローバル化によって、農業は効率化や国際貿易の一翼を担うようになりました。現在の農業は、持続可能性や食料安全保障の課題に取り組みつつ、地域の特性や需要に応じた多様な農業形態が存在しています。今回は私たちの生活になくてはならない農業を支える水門についてご紹介いたします。
日本の農業は危機的な状況
世界の人口増加等による食料需要の増大、食料貿易構造の変化、気候変動などが日本の食料供給に影響を与えています。日本のカロリーベースの食料自給率は38%(令和4年度)と先進国の中でも最低水準であり、食料安全保障の懸念が近年高まっています。
また、日本の農業は地球温暖化による大規模自然災害、農業従事者の減少などにより、生産基盤が脆弱化し地域コミュニティの衰退にも直面しています。
世界随一の農業インフラが整備されている日本
社会の発展にとって、社会インフラ整備は不可欠です。例えば、国道や鉄道などの社会インフラ整備により、人や物の移動が容易になり、人々の暮らしが豊かになってきました。農業においても同様に、社会インフラとして農業用水路をはじめとする農業水利施設が非常に重要です。その農業水利施設において日本は世界随一の農業インフラを有しており、農業用水路は全国で約40万km(地球10周分)整備され、ため池等のダム施設も全国に7000箇所に及びます。これにより、諸外国と比べて、農業に必要な水へのアクセスが比較的容易です。これは先人たちの努力によるものであり、代々受け継がれてきた遺産です。
世界かんがい施設遺産は世界中で登録が進められており、令和5年11月現在、日本では51施設が登録されています。世界全体でこれまで161施設登録されており、その実に3割が日本の施設です。しかも、これらの施設は単なる過去の遺産ではなく、100年以上前からそれらが存在し、現在も農業に活用され続けていることが登録条件の一つとなっています。
出典:農林水産省Webサイト https://www.maff.go.jp/j/nousin/kaigai/ICID/his/his.html
農業水利施設の多面的役割
これらの先人から受け継がれてきたすばらしい農業水利施設は農業だけではなく、地域に多大な恩恵をもたらしています。
- 大雨による洪水防止(治水機能)
ダム、水路、水田は台風など大雨の時に雨水を蓄えて洪水を防ぎ被害を軽くします。
- 親水空間の形成(親水・景観保全機能)
親水施設の美しい自然や風が人々に安らぎを与えてくれます。
- 生態系保全のはたらき(生態系保全機能)
ため池、水路、水田などはさまざまな生物が生息しています。
- 生活に必要なはたらき(生活用水・防火用水機能)
火災発生時の消化用水としてため池・水路などの水が利用されます。
農業水利施設の多面的役割によって、わたしたち人間の生活を豊かにしてくれています。
農業水利施設における高齢化問題
農業水利施設は土地改良事業法に基づき、地域の農業従事者で組織される土地改良区が管理、運営しています。農業従事者が主体となった地域の共同活動によって保全、維持されてきました。しかし、近年の農業従事者の高齢化、減少の影響でその管理が難しくなっています。特に農業従事者の高齢化の影響は大きく、将来的には農業水利施設の維持・管理が大きな問題になることが予想されます。
小形水門を遠隔操作する仕組みの開発へ
この問題に対して、THKは日常的に運用される小形水門をターゲットにあて、それを遠隔操作する仕組みの開発に取り組んでいます。現在、小形水門の操作は土地改良区職員、農業従事者が手動による現場操作を行っています。そこで、THKとして開発を始めるにあたり現場で情報収集を行ったところ次の課題を確認するに至りました。
1.現場の課題
- 農業従事者の高齢化と次世代担い手の不在
- 現場の作業環境が悪く、安全確保が難しい
- 現場の作業環境が悪く、手動操作による体への負担
- 小形水門は土地改良区の事務所よりアクセスがしづらく不便な場所にあることが多い
2.技術的な課題
- 小形水門の近くに電線・有線通信線がない
これらの課題に対して、THKは「独立電源・携帯通信網を利用した小形水門遠隔操作システム」をご提案します。このシステムは国立研究開発法人農業・食品産業技術研究機構の研究事業に参画をしながら改良を重ね正式リリースを目指しています。
小型水門遠隔操作システムの特長
特長は次のとおりです。
- 小型軽量な駆動アクチュエータにより、既存の小形水門に後付け可能
- 小型制御システムにより限られたスペースに設置が可能
- 太陽光パネルを利用した独立電源で商用電源(電線)が不要
- 簡易な設置作業のため工期数日で遠隔操作が可能
- 多彩な水門操作(全開、全閉、任意の開度操作)が遠隔で可能
- 監視カメラ、水位計、水温計などのオプションで水利施設監視を容易
- 他社のシステムとの連携が可能(現在検討中)
小型水門遠隔操作システムの稼働の様子
- 開動作
全閉状態から10cm開いたときの様子がこちらです。
- 閉動作
10cm開度から全閉したときの様子がこちらです。
製品構成と対象となるスライドゲート

土地改良区・農業従事者へのベネフィット
THKが開発する小形水門遠隔操作システムは、土地改良区・農業従事者へ次のようなベネフィットをもたらします。
- 豪雨時に安全に水門操作ができ、操作員の安全性と省力化
- 高齢化、減少する操作員に対し、省人化を実現
- 輪番制の地域での水資源の有効活用
- 大雨の頻発化による災害リスク低減
農業水利のDX支援のために
THKは日本の農業を守り、農業の基盤となる農業水利におけるDX(デジタルトランスフォーメンション)を支援するため、従来と比べて経済的に導入しやすい小形水門遠隔操作システムのリリースを目指しています。
ご興味をお持ちいただけましたら、以下お問い合わせフォームからお気軽にご連絡いただけますと幸いです。