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QOLを改善する「魅せるロボット義足」と自然な動きを長期サポートするTHK製品

BionicM株式会社の執行役員CTO 金石 大佑氏

金石氏とロボット義足(左端が現行製品、右へ向かって順に第4〜第1バージョン)

手術用ロボットに代表される医療機器は、患者の命を守るため、極めて高い操作精度と安全性が求められます。義足のような日常的に利用される医療福祉機器においては、下肢切断者の生活の質(Quality of Life, QOL)の向上のため、機器に対する信頼性を担保することが必要不可欠です。直動案内機器をはじめとするTHK製品は、機械要素部品として医療機器に広く採用されており、医療機器の性能向上・信頼性の構築に寄与しています。今回は、ロボット義足の開発ならびに販売をしているBionicM株式会社の執行役員CTOの金石 大佑氏にお話を伺いました。

制御エンジニアとして、ロボット義足の自然な動きに挑戦

金石氏は、二足歩行(ヒューマノイド)ロボットで有名な早稲田大学に入学した後、医療福祉ロボット研究室に所属し、振戦(ふるえ)を抑制するウェアラブルロボットのプロジェクトに取り組みました。在学中には、日欧産業協力センターが実施する欧州企業での研修プログラム(ヴルカヌス・イン・ヨーロッパ プログラム)に採択され、ドイツのコンチネンタルオートモーティブ社に約1年間のインターン生として従事した後、ウェアラブルロボットの制御に関する研究を行うため、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の博士課程に進学しました。
金石氏は、人間とロボットのアナロジーに対する興味関心やウェアラブルロボットを介した人間とロボットのインタラクションに関する研究に従事してきた経験から、「制御エンジニアとして、人間の意志に沿った、より自然な動きを実現できるウェアラブルロボットの制御技術の開発、実用化に携わりたい」と考えるようになりました。UCバークレーでの博士研究が終盤に差し掛かり、新たな研究開発の場を探さなくてはならなくなった頃、東京大学のJSK(情報システム工学研究室)でロボット義足の博士研究を行っていた孫 小軍氏(現 同社CEO)が、同研究で起業しようとしているとの噂を耳にしました。下肢切断者である孫氏が、義足というウェアラブルロボットを社会実装しようとしていることに興味を持ち、孫氏に会いに行きました。こうして2019年、金石氏は孫氏がCEOをつとめるベンチャー企業BionicMに制御エンジニアとしての入社を決め、2023年にはCTOに抜擢されました。
金石氏が所属するBionicMは、“自身の足で自由に動く”という根源的なモビリティにおける課題に対し、“Powering Mobility for All”というミッションのもと、課題解決に取り組まれています。同社が開発するロボット義足(同社商品名:パワード膝継手)にTHK製品は採用されており、義足ユーザーの課題解決や要求に応えるロボット義足の技術について、THK製品の技術を交えてお話を伺いました。

制御と機械部品の高度化で、実用性能へとレベルアップ

ロボット義足の実用化は、下肢切断を余儀なくされた世界中の義足ユーザーのQOL向上に寄与する重要なテーマです。従来の義足には摩擦やバネなどの物理的な仕組みを利用した機械式や、空気シリンダー内の空気の圧縮抵抗を利用した空圧式、さらには油の粘性抵抗を利用する油圧式などがあります。従来の義足は受動的なアシストのみとなるため、義足ユーザーが座った姿勢から立ち上がる際には、健側(非切断側)のみで立ち上がる必要がありました。
これに対しBionicMのロボット義足は、各種センサーとモーターを内蔵しており、ユーザーの座る、立つ、歩くといった動作をセンシングして識別します。センサーで識別された動作に合わせ、自然なタイミングでロボット義足はモーターによる能動的なアシストを行うことができます。そのため、ロボット義足ユーザーは義足からの動作アシストを利用して立ち上がることができます。
BionicMのロボット義足の内部にはボールねじなどの機械部品が配置されています。ボールねじはモーターの回転運動を一度直線運動に変換し、直線運動の動きはLMガイドを介して膝関節軸に伝達され、膝関節の曲げ伸ばし動作を制御することで、ユーザーの動作をアシストします。この機構で重要となるのは、極めて高い荷重(人間の全体重)を支える、ボールねじとLMガイドです。しかし、これらの制御技術、機械部品ともに入社当時のプロトタイプ(第1バージョン)では、ユーザーの活動時間における安全稼働や3年間という耐用年数など、求められる実用性能に追いついていませんでした。第1バージョンでは市販のボールねじと直動案内機器を採用していましたが、ボールねじの玉詰まりに起因する機械的なロックが発生することがあり、転倒事故につながりかねない状況でした。義足はユーザーが常時身に着ける医療福祉機器であり、ユーザーに製品を信頼してもらう上で安全性の担保は最重要事項です。

ロボット義足を装着し椅子に座っているBionicM株式会社の孫氏
ロボット義足を装着したBionicM株式会社の孫氏

上記の機械的な問題を鑑み、THKとのボールねじとLMガイドの調整・改善への取り組みが始まりました。ロボット義足は工場などの管理された環境で利用されるロボットとは異なり、ユーザーが日常生活で利用する機器のため、様々な使われ方をします。例えば、ユーザーが義足側に体重をかけて階段を下りようとするとき、義足には高荷重がかかりつつ、斜めに傾きます(下腿が前傾している状態)。義足がこのような状況になっても、義足内部のボールねじは正常に稼働して、滑らかな膝の曲げ伸ばしを実現しなくてはいけません。このような難しい要求に応えてもらえるメーカーを、第2バージョンの開発にあたって探していました。そこで、孫氏が在籍していた研究室に納入実績があり、信頼のおけるTHKに相談することにしました。THKとの試作を重ねていく中で、前述の高荷重への対応としては、ボールねじのボール径を小さくしつつ、使用するボールの数を増やしました。また、ボールねじがロックすることのないよう、ボールの詰まりに起因するボールとねじ溝の隙間(ねじ軸とナットの間の隙間)の最適化を図りました。この隙間の微調整はガタや位置決め遅れを生じるバックラッシュの防止にもつながっています。さらに、THKのボールねじとLMガイドは、耐久性についても確認済みです。THK製品を用いた機体は、弊社で設計・実施した耐久試験をクリアしていて、健常者の1年間の歩数に相当する300万歩分の稼働確認を行っています。THKとのボールねじとLMガイドのブラッシュアップによって、機構部分は製品化までに大幅に進化し、ロボット義足の自然な動きを支えています。

ロボット義足に採用されるLMガイド
ロボット義足に採用されるLMガイド
パワード義足に採用されるボールねじ
同用途で採用されるボールねじ

魅せるロボット義足

BionicMのロボット義足は、開発当初よりデザイナーを登用して「魅せる義足」を目指してきました。第1バージョンのデザインで2020年に、世界3大デザイン賞の一つとされる「Red Dot Design Award」においてデザインコンセプト部門の最高賞である「Luminary(ルミナリー賞)」を受賞しました。また、2022年には第4バージョンでグッドデザイン・ベスト100を受賞、2025年には米国ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES2025」にて、第5バージョンがAccessibility & AgeTech部門の最高賞である「Best of Innovation」を受賞しました。
従来の義足は、モジュールパーツに細い金属パイプを接続し、フォームカバーを製作して覆い隠すものという印象が強かったのに対し、ロボット義足ではむしろ義足を誇らしく魅せるデザインを目指し、ふくらはぎやアキレス腱などの人体の持つボリュームやアウトラインに寄り添った形状をしています。ズボンを履いた際も自然なシルエットを生み出しているほか、ユーザーの動きや立ち姿がより動的に美しく見えるようデザインされた立体曲面となっています。
上述の通り、デザインにこだわったのはもちろんですが、「視力の悪い人のための “視力矯正の道具” だった眼鏡は、近年個性を彩るファッションへと進化を遂げたなら、足がない人が身につける義足も単なる “歩行補助の器具” ではなく、自分らしさを表現するファッションにしたい」という孫氏のメッセージも評価されたからこそ、これらの受賞に至ったと思っています。

Big Leg®がCES2025で「Best of Innovation」を受賞した際のトロフィー

画像出典:BionicM社 米国事業の拠点となる米国子会社設立 CES 2025にて「Best of Innovation」を受賞したBio Leg®を展示

今後の展開

BionicMでは、ロボット義足への医療保険適用が承認される主力市場の米国での売上拡大を筆頭に、欧州各国、日本やアジアへと市場を展開していき、世界中の義足ユーザーのQOL向上に貢献していきたいと考えています。
また、ロボット義足ユーザーからのフィードバックを受けながら、ロボット義足の技術的な改善も継続して進めています。例えば、水の浸入による動作不良を起こさない(生活防水レベルの)防水性やモーター駆動部から生じる音の低減といった要望が寄せられています。また、現在のロボット義足の重量3㎏(バッテリーを含む)は、人間の下腿重量と同程度ですが、従来の軽量な義足を経験されてきた方々からは「持ち運ぶにはまだ重い」「より小型・軽量化してほしい」といった声があります。ロボット義足の制御(ソフトウエア)によって、自然でスムーズな人間の動きができるため「(装着時は)軽く感じる」と評価されていますが、防滴、防音、軽量化といったハードウエアに関する要望に応えられるよう、技術的改善を加えた次世代バージョンの開発もTHKにご協力いただきながら進めています。

インタビューの終わりに

こうした市場展開や技術開発を進めていく中で、金石氏はTHKに期待する役割として、「以前から変わらず、ロボット義足の機能を支える機械部品の耐久信頼性の部分が大きいですね。また、地政学的リスクに影響されない供給の安定性に対しても、安心していられます。さらに、ロボット義足を普及させていく段階でコスト面でもご協力をいただきました。」と述べられました。BionicMでは、確立した技術をロボット義足にとどめず、ヒューマノイドロボットなどへの転用も視野に入れているそうで、「そうした段階でも信頼性の高い機械要素部品を提供していただけるTHKとの共同開発や技術支援に期待しています。」と引き続きの共創に期待をかけていました。

医療福祉分野での課題解決も、全力でサポート

THKでは、スタートアップ企業のものづくりに関する課題解決をサポートする「EntSherpa(アントシェルパ)」を展開しています。私たちの専門チームが構想設計や機械要素部品の選定、技術相談に至るまで全方位でサポートします。数多くの業界で支援をした実績があり、スタートアップの皆様が抱える課題を迅速かつ的確に解決することができます。
「アイデアを形にしたい」「装置を具現化したい」といったチャレンジをお考えの際には、ぜひTHKにご相談ください。

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