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強磁場環境で活躍する低透磁率LMガイドとは?

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強い磁力によって物体が引きつけられるイメージ

近年テクノロジーの急速な発展によりMRIをはじめとする「医療機器」、電子ビーム描画装置をはじめとする「半導体関連装置」など、さまざまな業界で磁場を活用した技術が開発されています。今回のジャーナルでは磁場環境下で使用される直動部品に求められる性能と、そのような環境下でもご使用いただける低透磁率LMガイドをご紹介します。

磁場と金属の関係とは

そもそも磁場とは一体何でしょうか。磁石や電流の周囲では、金属を引き寄せる力・反発する力である磁力が発生します。この磁力が発生している空間を磁場といいます。皆さんも子供の頃に磁石をさまざまな物に近づけて遊んだことがあると思います。金属製品の多くはもちろん磁石にくっつきますし、プラスチックのような樹脂製品は磁石にくっつかなかった印象があるかと思います。そんな磁石にくっつく物体の中でも、特にクリップなどは磁石に一定時間近づけていると、磁石を遠ざけた後もクリップ自体が磁石のように振る舞い、他のクリップを引き寄せるという現象を体験した方も多いのではないでしょうか。このような磁場によって強く磁化されるような物質は、強磁性体と呼ばれます。私たちの身近な金属である鉄は最も代表的な強磁性体の一つです。

左は非磁性材の場合、右は強磁性体の場合の磁場の影響を表している
左:非磁性材の場合 右:強磁性体の場合

磁場を活用した技術とは

鉄は安価なうえに扱いやすい金属であり、私たちの身の回りのさまざまな物に使用され、現代の豊かな生活を支えています。しかし、世の中には強磁性体である鉄を使用できない装置が存在します。

医療業界:MRI装置 (磁気共鳴画像診断装置)

私たちの身近な例としては、医療現場で使用されているMRI装置が挙げられます。MRI検査では、MRI装置が強力な磁場を発生させ、その磁場を活用することで身体の内部を画像化します。MRI装置自体が一つの強力な磁石であるので、強磁性体である鉄製品を非常に強い力で吸い寄せるため大変危険です。そのため、患者は検査前に金属製品を全て外さなければいけません。また、近くに配置する機材の材質には磁場に影響されにくい物質を使用する必要があります。

医療機器のひとつであるMRI装置
MRI装置 (磁気共鳴画像診断装置)

半導体業界:電子ビーム描画装置

電子ビーム描画装置と呼ばれる半導体関連の装置も、強磁性体を使用することができません。この装置は文字通り電子のビームによって電子回路のパターンを描画します。この装置を使用することで、現在の技術では2nm100万分の2mm)の回路幅を作ることが可能です。
しかし、電子を使用しているので、周辺の材質に少しでも磁性があると電子ビームが磁場に影響され曲がってしまい、正確な回路を描くことが難しくなります。そのため、正確な回路を描くためには、周辺部品に磁性がない、あるいは磁場の影響が非常に小さい材料を使う必要があります。

半導体業界で活躍する電子ビーム描画装置でつくられる電子基板
電子基板

磁場環境下で機械要素部品に求められる仕様

磁場の影響の受けやすさを表す指標があり、この指標を「比透磁率」と呼びます。比透磁率とは物質の透磁率と真空の透磁率との比で、値が1に近ければ近いほど磁場の影響を受けにくいことを表す指標になります。一般的に機械要素部品で使用される鉄材料は比透磁率が50~5000程度であると言われています。
装置によっても異なりますが、MRIや電子ビーム描画装置などでは金属材料を使用する場合にはこの比透磁率が低い、つまり「低透磁率」の金属材料を使用しなければなりません。

しかし、ただ低透磁率の材料を使えば良いというわけではありません。機械要素部品に金属材料が使用される場合、その材料の表面硬さはHRC60程度が適していると言われています。例えばSUS316のような低透磁率の材料は表面硬さがHRC30程度で、比較的小さい傾向にあります。このような材質を使用すると充分な表面硬さが確保できず、機械要素部品としての性能が低くなったり寿命が短くなったりします。従来の材料では低透磁率という特性と材料の表面硬さはトレードオフの関係にありました。
それでは、強磁性体である鉄がメイン材料である機械要素部品は、こうしたニーズに対してどのようなアプローチをするべきなのでしょうか。

低透磁率LMガイドHSR-M3について

磁場の影響を受けにくい低透磁率のLMガイドHSR-M3形
低透磁率LMガイド「HSR-M3形」

THKは、MRI装置や各種試験装置などの強磁場が発生する装置にもご採用いただけるよう、磁場の影響を受けにくい低透磁率のLMガイド「HSR-M3形」を開発しました。この製品の最大の特長は低透磁率という特性にあります。特殊な材料を用いることで比透磁率1.02という非常に低い値を達成しました。LMレールとLMブロックに低透磁率材料を使用することで磁場環境下でも製品性能を十分に発揮することができるため、磁場を気にすることなく設計いただくことが可能です。
低透磁率という特長に加えて、低透磁率な材料の中でもHRC40以上という比較的表面硬度が高いという特長があります。表面硬度を確保できていることで、他の低透磁率の材料と比べて定格荷重が比較的大きい製品となっています。これにより、今までよりさらに大きな荷重を負荷させることが可能で、積載物の重心をLMガイドからより遠い位置に配置することができるなど、設計の自由度が大幅に向上します。

材質の硬度と比透磁率を表したグラフでHSR-M3形はHRC40以上の硬度がある
材質の硬度と比透磁率

低透磁率LMガイド「HSR-M3形」は、THKLMガイドの中でも長きに渡り世界中の多くの機械や装置にご採用いただいているHSR形のシリーズの一つです。世界標準であるISO規格の寸法にも準拠しています。また、本製品はHSR形の取付誤差を吸収できる「自動調整能力」やあらゆる姿勢でご使用いただける「4方向等荷重」といった特長を持ち合わせているため、既存設備の設計を大幅に変更することなく導入いただけます。
低透磁率仕様のLMガイドは今まで特殊品として対応していましたが、本製品は標準品として正式にラインナップしています。これにより、お客様の製品選定の工数削減に貢献します。

強磁場環境でも安定した直線運動

今回は、磁場環境下で使用される直動部品に求められる性能と、低透磁率LMガイド「HSR-M3形」をご紹介しました。今後も装置の高精度化・高機能化が進む中で、低透磁率に対するニーズはより一層増していくことが予想されます。磁場環境下での機械要素部品のご検討にあたり、お困りごとがありましたらTHKへお気軽にお問い合わせください。

低透磁率LMガイド HSR-M3形に関する詳細はこちら(THKサイト)

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