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AIが卓球プロ選手に勝利!ソニーAIの卓球ロボット「Ace」を支えたTHKの高速・高精度技術とは

ソニーAIの卓球ロボット(AIエージェント)「Ace」を支えるTHKの高速・高精度技術

人工知能(AI)の世界において、チェスや将棋の競技では人間のスキル・戦術・戦略をAIが機械学習し、その道のプロに勝利することもごく当たり前の光景になりつつあります。こうしたゲームは、AIと人間の能力を比較するベンチマークとして利用されてきました。一方で、フィジカルゲームやスポーツのように三次元の動きの中で物理的に相互作用が必要とされる競技の世界では、AIが人間と肩を並べるレベルのプレイをすることは難しいとされてきました。
このような課題に対して、ソニーリサーチの一部門であるソニーAIはリサーチプロジェクト「プロジェクトAce」を立ち上げました。THKは、本プロジェクトにリニアモータXY軸ユニットを提供し、ソニーAIの卓球ロボット(AIエージェント)が上位ランクの卓球選手を相手に勝利することに貢献しました。
本記事では、プロジェクトAceの概要と目的、一流卓球選手との画期的な対戦成果、そして自律型ロボットシステム「Ace」の高速動作・高い位置決め精度を支えるTHKのリニアモータXY軸ユニットの特長や優位性について紹介します。

ソニーAIのプロジェクトAceとは

「プロジェクトAce」は、AIシステムの舞台を卓球という現実世界のスポーツ競技へと展開し、プロの卓球選手に勝利できる先進的な自律型ロボットシステム「Ace」の研究開発を目指したものです。Aceの開発は、ソニーAIチューリッヒオフィスのディレクター兼プロジェクトリーダーであるピーター・ドゥワー氏が主導しました。ドゥワー氏は2022年に仮想空間のレースゲームにおける自動運転AI「Gran Turismo Sophy(グランツーリスモ・ソフィー)」の研究に参画しており、Aceはそのアプローチを現実世界の環境へと発展させたものです。本研究では、卓球での対戦にとどまらず、動的な環境下で高速かつ高精度な動作能力を有する人間と対戦する際、ロボットがどのように認識・計画・行動し得るのかについての知見を深めることも目的としています。

プロジェクトAceを構成する3つの技術基盤

一流卓球選手に勝利した自律型ロボットシステムAceは、①ソニー独自の先進的センサー技術(認識)、②深層強化学習(シミュレーション&制御)、③精密ロボットハードウェアの三位一体で成立しており、いずれも不可欠な技術基盤です。「個々の技術だけでなく、それらをいかに連携させるかが重要でした」と、ソニーAIのプロジェクトAceリーダーのピーター・ドゥワー氏は語ります。

先進的センサー技術として、9台のRGBカメラとイベントビジョンセンサー(EVS)を用いた3台の視線制御システム(GCS)を組合わせることで、ボールの位置と回転を三次元空間で高解像度・高速に追跡します。認知システムのレイテンシー(遅延)を低減させることが、高速ラリーでのタイミング精度と成功率の向上に直結しています。
また、人間による手動プログラミングでは制御システムの開発が不可能なため、ソニーAIは最適制御を統合した独自の深層強化学習手法を開発しました。シミュレーション環境は手動プログラミングと教師あり学習を組合わせて構築し、制御システムは強化学習を用いてプレイ方法を学習しました。プロ選手が打つ20m/s超のボール速度にリアルタイムで対応するには、システムの高速な応答性が極めて重要です。シミュレーション環境の拡充と、より速く打つことを促す応答設計の最適化により、性能の向上を実現しました。
さらに、精密ロボットハードウェアは、システム全体の応答速度を20ms(ミリ秒)未満に短縮するため重要な役割を担います。機械的な応答性、剛性、精度が高速卓球ラリーに必要な制御帯域を支えています。

ソニーAIのAceシステムのセットアップ
Aceシステムのセットアップ

a:9台のAPSカメラと3台の視線制御システム(GCS)がタワーに設置され、オリンピックサイズのコート全体をプレイエリアの外側から監視
b:プレイヤーはコートの半分でプレイできるが、安全上の理由からロボット側のコートには入らないように指示し、2名の公認審判員がテーブルの両側から試合を判定
c:ロボットのハードウェアは、二つのプリズムジョイントと六つの回転ジョイント、そしてラケットとボールを保持するカップを備えたエンドエフェクタで構成されており、片手でのサーブを可能にする
d:GCSはイベントカメラ、焦点可変望遠レンズ、ガルバノメーターパン/チルトミラーで構成

ロボットハードウェアの開発に貢献するTHKのリニアモータXY軸ユニット

詳細なロボットハードウェアの構成と要求性能については、ソニーAI東京オフィスのスタッフロボティクスエンジニアである向井暢彦氏に解説いただきました。
自律型ロボットAceは、リニアモータ駆動とボールリテーナ入りLMガイドSHS形を組合わせたTHKの「リニアモータXY軸ユニット」に、THK製クロスローラーリングRU形を採用したソニー開発の6軸ロボットを搭載しています。この構成により、ラケットを最大20m/sで振ることを実現しています。この仕様は、プロ選手の試合データを計測し、「0.8秒のサイクルでラケットを振る」という要求性能から導き出されたものです。

リニアモータXY軸ユニットに搭載されているTHKのボールリテーナ入りLMガイドSHS形
ボールリテーナ入りLMガイドSHS形
6軸ロボットに採用されているTHKのクロスローラーリングRU形
クロスローラーリングRU形

開発当初は市販のロボット(6軸ロボットなど)やベルト駆動方式のリニアステージを試験導入しました。しかし、プロ選手との対戦に必要な加速度が不足し、重量支持能力や追従遅延の面でも要求性能を満たせなかったため、ソニーAI自社でロボットを設計・製作する方針に転換しました。自社開発にあたって着目したのがソニーが20年以上にわたり検査装置などで採用し、豊富な知見を持つTHK製アクチュエータです。ラケットを保持する自社製6軸ロボットの前後・左右方向の高速・高精度な動作を実現するためにTHK製リニアモータXY軸ユニットを採用しました。

しかし、プロの卓球選手を破った自律型ロボットのXYステージが完成するまでには、いくつかの課題を解決する必要がありました。
そのひとつが最初に納入されたリニアモータXY軸ユニット(1号機)における剛性の問題でした。高速動作時に可動台が振動することが判明したため、ソニーAIはLMガイドの軸数を2軸から3軸へ増設するなどの改修を自社で実施しました。
この改良設計を反映して、推力を3倍、加速度を1.5倍に向上させた2号機をTHKへ新規発注しました。この性能向上が一流の卓球選手に勝利する上で決定的な要因の一つとなりました。

XYステージは重量40kg程度のロボット全体を高速かつ100μm以下の精度で動かす基盤であり、その高い性能がシステム全体のパフォーマンスに大きく貢献します。ソニーAIでは、加速度2Gという公式スペックを超える性能を引き出すため、速度を少し落としてY軸の加速度を2.5Gまで上げるといった独自のチューニングを行っています。

自律型ロボットに採用されているTHKのリニアモータXY軸ユニット
自律型ロボットに採用されているTHKのリニアモータXY軸ユニット

Aceの研究開発の結果と技術改善

2026年4月23日発行の国際科学誌『Nature(第8110号)』には、その研究成果を示した論文が掲載され、2025年4月に実施した対戦結果の分析と評価が報告されています。Aceは卓球歴10年以上のエリート選手5名と2ゲーム先取制で、また日本のTリーグで活躍するプロ選手2名と3ゲーム先取制で対戦しました。
試合は国際卓球連盟(ITTF)のルールに準拠し、ラケットの自由選択やオリンピックサイズのコート(プレイヤー側7m×7m×5m)など従来の競技条件を再現して行われました。ただし全試合において、Tリーグで採用されるゴールデンポイントルール(先に11ポイントを獲得したプレイヤーが勝利)を適用しました。さらに、日本卓球協会(JTTA)公認の審判2名がコートの両側からポイントを判定し、ルールの遵守を徹底しました。
その結果、Aceはエリート選手(下図Elite)との5試合中3試合に勝利し、合計13ゲーム中7ゲームを獲得しました。一方で、プロ選手(下図Pro)との2試合は敗北し、7ゲーム中1ゲームしか獲得できないという結果となりました。
Aceは、14m/sまでのショットを安定して返球し最大ボール速度16.4 m/sとスピン速度600 rad/sを達成しました。Aceが返球した対戦相手・人間の卓球選手の最大ボール速度とスピン速度は、それぞれ19.6 m/sおよび867 rad/sでした。

ソニーAIのAceと人間プレイヤーの対戦結果と評価結果
評価結果

a:試合のスコア
b:勝利ショット後のテーブルバウンド後のボールの状態。点はバウンド位置を示す。点から伸びる線は速度を表し、色はスピン軸を表す
c:Aceと人間プレイヤーの、速度別の返球率(相手のラケットヒット後に測定)
d:Aceと人間プレイヤーの、回転速度別の返球率と回転方向(相手のラケットヒット後に測定)
e:Aceと人間プレイヤーが打った打球直後のボール速度。
f:Aceと人間の打球直後のボール角速度
g:テーブルバウンドからラケットヒットまでの時間

なお、上記の論文が対象とした2025年4月から約1年が経過した2026年4月現在、技術的な進化は著しく、対応可能なボール速度は当時の約14m/sから人間の選手と同等の約25m/sへと向上しています。スピン速度も当時の600 rad/sから人間の選手に匹敵する800 rad/s超へと進化しました。

この技術の進展には、ロボットハードウェアの改善と、深層強化学習(シミュレーション&制御)の改善が寄与しています。
ハードウェア改善の面では、ソニー製6軸ロボットのモータ(安川電機製)および減速機(ハーモニック・ドライブ・システムズ製)の最適化によりトルクを向上させたほか、THK製クロスローラーリングも最適サイズへ再設計されました。これらのチューニングはオーバーヒートを防ぎながら性能を最大限に引き出すため、段階的に実施されました。
一方、ソフトフェア面では2つの独立した改善を実施しました。深層強化学習においては、より強いショットを打つための報酬関数による改善を行い、また、知覚システムのレイテンシーの削減を行いました。これらの変化により、システムは環境の急激な変化に対してより効果的に応答できるようになりました。
ピーター・ドゥワー氏は「本研究は、環境の急な変化に対してロボットが極めて迅速に反応できることを示した基礎研究であり、特定の産業応用を狙ったものではありません。しかし、この高速適応能力は、産業現場における不確実性や変動への対応が求められる領域(高速ピッキング、動的組立など)に広く示唆を与えるもので、『Nature(第8110号)』での研究成果の公開を通じて、ロボット工学コミュニティによる応用展開が期待されるでしょう」と語っています。

多様なニーズに合わせてカスタマイズ可能なTHKのユニットソリューション

今回は、三次元の動きの中で物理的に相互作用が必要な卓球という競技スポーツの分野で、一流の選手と対等に対戦できたAIエージェントAceの研究開発の成果と、その高速・高精度の動作を支えるリニアモータXY軸ユニットについて紹介しました。
THKのユニットソリューションは、卓球という競技の場だけでなく、ものづくりの現場においても、人が行う作業の変化に対応した、迅速で高速・高精度の位置決めが可能です。自動化をご検討中のお客様には、現場の課題に応じたソリューションや自動化のアイデアをご提案します。まずはお気軽に最寄りのTHK支店・営業所へご相談ください。

※本記事の内容は、2026年6月の取材時点の情報に基づいています。

<出典>
図表:英国科学誌『Nature』(第8110号、2026年)
写真:株式会社ソニーリサーチおよびSony AIの承諾を得て掲載

ソニーAIのリサーチプロジェクトに高速・高精度「リニアモータXY軸ユニット」を提供 ~卓球競技でロボットが人間と肩を並べるレベルのプレイを実現する最先端研究開発を支援~【ニュースリリース】(THKサイト)
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