2025年07月30日
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スタートアップ企業との共創でものづくりの未来を拓く!THKとチャレナジーの挑戦
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THKは「ものづくりサービス業」をビジョンに掲げ、お取引先様はもちろん、ものづくりに関わる課題を持った方に、製品、サービス、及びそれらを融合したソリューションを提供しています。その一環として2021年4月からスタートアップ企業向けの技術支援サービス 「EntSherpa(アントシェルパ)」の提供を開始しました。THKが創立以来蓄積してきたノウハウをもとに、専門チームがアイデアの具現化から技術面の課題解決まで、スタートアップ企業の事業運営を全力でサポートするサービスです。各企業様が目指す「理想」までの道先案内人として、例えば、アイデアの早期具現化の技術相談、製品選定のアドバイス、製品の無償サンプル提供などをサポートします。
今回は、スタートアップの先駆者として国内外のフィールドで活躍中の、株式会社チャレナジー(以下、チャレナジー)代表取締役CEOの清水敦史さんにお話をお聞きしました。起業から現在に至る再生可能エネルギー(以下、再エネ)拡大や再エネインフラ整備に向けた取り組み、THKとの共創の取り組みの一端を紹介します。
震災を機に、日本の風況にマッチした風車の開発へ
2011年3月11日の東日本大震災による福島第一原発の事故を受け、大阪の電気機器メーカーでファクトリーオートメーション機器の開発に携わっていた清水さんは、「原発に頼らないエネルギーシフトに貢献したい」と考えました。しかし、再エネ技術は専門外だったため、会社勤めの傍ら再エネ関連技術を独学で学び、日本の風況に合う風力発電機を発明し、再エネ技術での社会貢献活動を行う決意を固め起業しました。
しかし、なぜ風力発電を選んだのでしょうか?
第一の理由は、小学校の卒業文集に「発明家になりたい」と書いて以来のパッションがあり、機構部を持つ風力発電ならエンジニアの経験を生かしつつ、日本のエジソンになる夢に挑戦できると感じたからです。

第二の理由は、日本の風力発電のポテンシャルが1,500GWと大きい一方、実際の発電量は電源構成の1%に満たないという現状があったからです。約6,000件の風車関連特許を調査した結果、羽根がなく日本の風向に左右されない、垂直軸式で円筒を回す「マグナス式風車」*の実用化がされていなかったため、そこにビジネスチャンスを見出しました。しかし、風車の風上側に位置する円筒と、風下側に位置する円筒が、同時に同じ方向にマグナス力を発生させることで風車部全体を回転させる力を相殺してしまうという課題を解決する必要がありました。
*垂直軸型マグナス風力発電機の原理
1. ピッチャーがボールに回転をかけてカーブボールを投げた場合、ボールはキャッチャー側から向かい風を受けている。
2. カーブボールの回転は上から見て反時計回りとなる。
3. ボールの左側では、ボールの回転方向と向かい風が一致し、空気の流れが速くなる。
4. ボールの右側では、ボールの回転方向と向かい風が逆となり、空気の流れが遅くなる。
5. ボールの左右で空気の流れに差ができることで、ボールが左方向に曲がる。
6. ボールを円筒に置き換えて回転をかけ、円筒が風に対して曲がろうとする力で風車全体を回している。

そこで、それぞれ逆回転に回した円筒を二つセットで使うというアイデアを考案し、特許を出願しました。当時、①プロトタイプを実際に動かす②特許を取得する、という起業の条件を設定しましたが、プロトタイプは2012年、特許取得は2013年に達成したことで、チャレナジー(Challenergy)を設立しました。この社名はエネルギー(energy)に挑戦(challenge)するとの想いをこめて命名されました。
ところが、最初に考案したアイデアでは風車効率が1%以下と小さいことが判明します。手作りの風洞で試行錯誤していた2015年、円筒周囲の風の流れを確認しようと清水さんが手をかざした際、マグナス力を測定するトルク計の値が大きく振れました。円筒の特定の向きに物体を近づけるとマグナス力を抑制できるという新たな物理法則を発見した瞬間です。
この発見を応用し、円筒の後方に「整流板」を取り付けることで、風車の風上側に位置する円筒のマグナス力には影響を与えずに、風下側に位置する円筒のマグナス力のみを抑制し、風車の効率よい回転を可能にする技術を確立しました。これにより、シミュレーションでのエネルギー変換効率は33%と最初のアイデアの300倍に高まりました。

THKとの出会いを経て、国内外での実証試験開始へ
起業前年の2013年2月、清水さんは風車関連の製品・技術を調査すべく東京ビッグサイトで開催された「第1回 風力発電展」を訪ねました。そこでTHKと、THKブースで展示されていた垂直軸風車用低トルクシャフトユニット「WLS」に出会ったのです。垂直軸型風車向けの製品・技術に触れたのは、これが初めてでした。
この出会いをきっかけに、清水さんとTHKとの連携が始まりました。

その後、2016年8月に沖縄県南城市に低トルクシャフトユニット搭載の設備容量1kW級のマグナス式風車を設置しました。台風下での実証実験を開始し、2017年10月に最大風速33m/sを記録した台風第21号の中でも安定的な発電に成功しました。南城市で風車の落成式を行った際には、1kW機完成記念としてTHKからシーサーを寄贈しました。このシーサーは現在も事業の守り神として、チャレナジーの本社に鎮座しています。


2018年8月からは沖縄県石垣島で、設備容量10kWの設備に合わせ大型化したシャフトユニットを搭載しての実証試験を開始し、最大瞬間風速30.4m/sの台風下でも円滑な発電に成功しています。

さらに、2021年8月にはフィリピン・バタネス州で10kWのマグナス式風車を稼働しました。太平洋側に位置するため石垣島と同様に台風の襲来が多く、離島のため安定した電力供給が難しい地域です。2022年9月の台風11号はフィリピンと石垣島を急襲しましたが、いずれも安定して発電しました。

垂直軸型マグナス式風車は、風向きが変わることに起因する故障や暴走のリスクが小さく、回転がゆっくりのため騒音も小さいのが特徴です。また、鳥が風車に衝突するバードストライクのリスクが小さいことも実証中です。
清水さんは、「いずれも設備容量10kW向けに、大型の低トルクシャフトユニットを製作・提供してもらいました。THKからの支援は、風車全体の設計についてのアドバイスから安全率に関する考え方、トラブルが起こりやすい事項に関する留意点、風車の損傷につながる錆発生の抑制方法、さらには寒い地域でのボルト締めの方法に至るまで、細部にわたる技術指導やノウハウをご教示いただきました。起業したばかりで資金が足りない折には、無償で製品・技術の援助をいただいたこともあります。低トルクシャフトユニットを中心とした多大なる支援のおかげで、マグナス式風車が回ってきたとも言えます。」と語っていました。
今後のTHKへの期待と清水さんの想い
2025年3月、チャレナジーと福島県南相馬市は、風力発電の産業推進を目指して協定を締結し、発電効率と発電コストを改善可能な100kW大型マグナス式風車の開発を進めています。
清水さんは、「100kW機では、引き続き、風車の中核技術のTHKシャフトユニットの活用に加えて、免震機構の導入についても相談したいですね。また、様々な部品の可動が必要になることも想定されるため、LMガイドやボールねじの応用技術で支援していただければと思います。」と、THKによる引き続きの支援と両社による共創に期待を込め、今後の開発について語っていました。
三現主義で、諦めずに、やり抜くことが大事
スタートアップを志す方に対し清水さんは、「諦めずにやり抜く覚悟が大事」と助言しつつ、本田宗一郎が提唱した「三現主義」に触れ、「現場にいるから現物と現実を見て考えることができ、手を動かして目標へと進むことができます。現場に居続けて、現物に触れ、現実を知った上で、考え、手を動かして、日本の再エネ拡大に寄与していきたいですね。」と力強くお話してくださいました。

ものづくりに関する課題解決を全力でサポート!
現代では、インターネットを活用して情報を調べたり、商品を購入したりすることが容易になり、さらにAI技術の進化により多くの分野で効率化が進んでいます。しかし、アイデアを実現するためにはやはり「人の力」が不可欠です。やりたいことを形にするためには、知識と知識の掛け合わせが重要です。
THKでは、スタートアップ企業のものづくりに関する課題解決をサポートする「EntSherpa(アントシェルパ)」を展開しています。私たちの専門チームが構想設計や機械要素部品の選定、技術相談に至るまで全方位でサポートします。数多くの業界で支援をした実績があり、スタートアップの皆様が抱える課題を迅速かつ的確に解決することができます。
「アイデアを形にしたい」「装置を具現化したい」といったチャレンジをお考えの際には、ぜひTHKにご相談ください。