2024年08月07日
製品
装置のコンパクト化と高性能化を実現するボールねじとは
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日常生活において、あらゆるモノの進化はコンパクト化する技術の向上に支えられています。「コンパクト化に勝る改良はない」と言われるほど、ものづくりに携わる技術者にとってコンパクト化は永遠のテーマになっています。コンパクト化することで、どんなメリットがあるのでしょうか?また、装置をコンパクト化するにはどのような方法があるのでしょうか?本記事では、装置に必要不可欠なボールねじを例に装置をコンパクト化するソリューションをご紹介します。
生産性向上や便利な生活を支える「コンパクト化」
スマートフォンを一例に考えた場合、片手で持ち歩けるサイズに高解像度なカメラや大容量を保存するメモリ、高速通信可能なシステム、それらを高速で処理するチップ等が組み込まれています。これは、高性能でありながら従来品と同寸法もしくはよりコンパクトな部品の開発が寄与しています。つまりコンパクト化が現代の便利な生活を支えていると言っても過言ではありません。装置の開発においても、コンパクト化の需要はとても高いです。装置自体の高性能化だけでなく、装置自体がコンパクト化することにより、余裕のできたスペースを新たに活用することで生産性向上を実現できます。
ボールねじをコンパクト化する方法と課題とは?
装置には駆動部にボールねじとモータ、案内部にLMガイドを組み合わせた機構が採用されます。また、複数軸を組み合わせることで複雑な動作が可能となり、各軸にLMガイド、ボールねじ、モータ等の部品を取り付けます。そのため、コンパクトな装置を設計したい場合はそれらの部品のコンパクト化が重要です。
特にコンパクト化が難しいとされるボールねじをコンパクト化するためにはどうすればよいでしょうか?一番に思いつくのは、今お使い頂いているボールねじよりサイズが小さい形番を選定することです。軸径が小さくなれば、必然とナット外径も小さくなります。その結果、ボールねじの軸心を下げる事が可能で、装置がコンパクトになります。
しかし、そこには落とし穴があります。設計者の方はお気づきかと思いますが、コンパクト化におけるトレードオフを考慮する必要があります。トレードオフとは「何かを得たら、何かを失う」、つまりは両立しない関係性のことです。ボールねじを1サイズ下げることで、軸径・ナット径が小さくなりますが、ナットに組み込まれるボールのサイズも小さくなります。これにより、ボールねじで負荷できる荷重が減り、「寿命」が今お使い頂いているボールねじより短くなる可能性があります。
また、軸径が小さくなることは「高速性」にも影響を及ぼします。ねじ軸の危険速度により、高速送りができない場合があるからです。ねじ軸の危険速度は、ねじ軸の固有振動数により共振を起こすことなく使用可能な値です。共振が起こるとねじ軸が振れ回る、いわゆる「縄跳び現象」が起こり、ねじ軸やナット、軸受等の破損につながる可能性があります。この縄跳び現象は、ねじ軸が細く長いほど起こりやすくなります。
コンパクト化においては、「寿命」や「高速性」も含めて検討をする必要があります。


コンパクト化の「トレードオフ」を諦めない、THKのソリューション
コンパクト化と寿命・高速性のトレードオフは諦めないといけないのでしょうか。THKはいずれの性能も両立させ、更なる長寿命や高速性、設計工数の削減を追求した製品「軸端末完成品SDA-VZ形」をご提案しています。
SDA-VZ形の一番の特長は、コンパクトなナット外径です。ナット外径が大きくなる要因として、ボール循環方式による影響が挙げられます。最も一般的なボール循環方式であるリターンパイプ方式では、リターンパイプ内をボールが循環する構造となるため、リターンパイプやパイプを押さえる部品によりナット外径が大きくなります。SDA-VZ形は高精度な加工技術により実現した新開発の循環部品と理想的なボール循環構造によって、ナット内部をボールが循環する構造のため、ねじ軸径に対しナット外径のコンパクト化を実現しました。同じ軸径のリターンパイプ方式のナット外径とSDA-VZ形のナット外径を比較すると最大30%のコンパクト化が可能です。
さらに、コンパクトなナット外径という特長を最大限に引き出す専用の低軸心用サポートユニットも用意しており、装置のコンパクト化にダイレクトに貢献します。

高速化の実現
SDA-VZ形は新たな循環部品と理想的なボール循環構造により、最高回転数5,000min-1(DN値:10万)を実現し、既存形番より高速性が43%向上します。DN値は循環部品が破損することなく使用可能な値です。軸径φ20/リード20mmのボールねじを選定した場合の最高速度は96.2m/minを実現します。
長寿命化の実現
長寿命化するためのポイントは、ボールねじに作用する荷重の低減とボールねじの定格荷重の向上です。
ボールねじに作用する荷重の低減は、搬送する質量に大きく起因します。下図のような各方向に500mmストローク可能なXYステージにてSDA2020VCZ-3形と既存形番(軸径φ20/リード20mm)で、下軸に作用する荷重を比較すると約10%低減します。コンパクトなボールねじSDA-VZ形と低軸心サポートユニットを用いることで、プレートのコンパクト化かつ軽量化ができ、ボールねじに作用する荷重の低減が可能です。
ストローク500mmを加速度1.0Gで動作させた場合、SDA-VZ形の寿命は既存形番と比較して約2.2倍向上します。

ボールねじのコンパクト化が既存装置の高性能化を実現
ボールねじのコンパクト化により、既存装置に今お使い頂いているボールねじより1サイズアップした形番を選定することも可能です。それにより装置性能が向上します。
危険速度の向上、1サイクル当たりの時間短縮
ストローク1000mmを加速度1.0Gで動作させた場合、既存形番の軸径φ20/リード20mmのボールねじを選定した場合の危険速度は43.6m/minとなります。一方、1サイズアップした軸径φ25/リード20mmのSDA-VZを選定することで、ナット外径は同等でありながら、危険速度は55.1m/minとなり、約26%向上します。また、1サイクル当たりの時間は約0.54秒短縮できます。
高速送りが可能になることで1サイクル当たりの時間が短縮され、生産性の向上に貢献できます。
定格荷重の向上
ボールねじの定格荷重の向上は、ボール径やボール個数に起因します。既存形番の軸径φ20/リード20mmより1サイズアップした軸径φ25/リード20mmのSDA-VZ形を選定することで、装置の外形寸法は同等でありながら、定格荷重は約73%向上します。また、ストローク500mmを加速度1.0Gで動作させた場合、1サイズアップしたSDA-VZ形の寿命は既存形番と比較して約3.9倍向上します。
■新規装置に使用した場合:装置自体のコンパクト化と性能向上
性能評価(※)
比較項目 | 軸径φ20/リード20 | 比較結果 | |
---|---|---|---|
既存形番(φ20) | SDA-VZ(φ20) | ||
定格荷重(kN) | 7 | 10.8 | 54%UP |
回転数(min-1) | 3372 | 4818 | 42%UP |
速度(m/min) | 67.4 | 96.2 | 43%UP |
1サイクルタイム(s) | 1.12 | 0.95 | 0.17秒短縮 |
下軸に作用する荷重(kg) | 200 | 188 | 6%DOWN |
寿命(rev) | 4.36×107 | 9.48×107 | 2.2倍 |
外観サイズ比較(装置構造:XYステージ)
比較項目 | 軸径φ20/リード20 | 比較結果 | |
---|---|---|---|
既存形番(φ20) | SDA-VZ(φ20) | ||
テーブル上面高さ(mm) | 180 | 151 | 29mmDOWN |
■既存装置に形番を1サイズアップして使用した場合:装置の性能向上
性能評価(※)
比較項目 | 軸径φ20→25/リード20 | 比較結果 | |
---|---|---|---|
既存形番(φ20) | SDA-VZ(φ25) | ||
定格荷重(kN) | 7 | 12.1 | 73%UP |
回転数(min-1) | 3372 | 3880 | 15%UP |
速度(m/min) | 67.4 | 77.6 | 15%UP |
1サイクルタイム(s) | 1.12 | 1.04 | 0.08秒短縮 |
下軸に作用する荷重(kg) | 200 | 200 | 差異なし |
寿命(rev) | 4.36×107 | 1.70×108 | 3.9倍 |
外観サイズ比較(装置構造:XYステージ)
比較項目 | 軸径φ20→25/リード20 | 比較結果 | |
---|---|---|---|
既存形番(φ20) | SDA-VZ(φ25) | ||
テーブル上面高さ(mm) | 180 | 180 | 差異なし |
※使用条件
ストローク:500 mm
取付方法:固定-支持
取付間距離:600 mm
加速度:1.0 G
案内(ガイド):SHS25V
装置駆動部の設計工数を大幅削減。現場目線のトータルソリューション
ボールねじ駆動機構として採用するためには、ボールねじの形番選定だけではなく、ねじ軸を固定する軸端末形状の設計、サポートユニット選定、ボールねじナットを固定するブラケットの設計等、多くの設計要素があり、工数や時間を要してしまいます。SDA-VZ形は、ねじ軸の端末形状を標準化し、さらにねじ軸を固定可能なサポートユニットを用意しました。それにより、ボールねじ取り付け周辺の設計を容易化し大幅な設計工数の削減が可能です。THKは、コンパクト化だけでなくお客様のニーズにお応えするソリューションをご提案いたします。
今回は、ボールねじのコンパクト化とTHKのソリューションについてご紹介しました。従来はボールねじのコンパクト化により、トレードオフとなってしまった課題をSDA-VZ形の採用により技術的にクリアにしたことで、装置に大きなメリットが生まれ、生産性の向上に貢献できると考えております。装置のコンパクト化や高速化に対し、お困りごとやお悩みがございましたら、ぜひ一度THKにご相談ください。
軸端末完成品・精密ボールねじ「SDA-VZ形」の受注を開始 ~コンパクトなナット外径で装置の小型化を実現~(ニュースリリース)