1. トップ
  2. THKジャーナル
  3. 製品ジャーナル
  4. 入院患者に寄り添い看護師の業務負担を軽減する!自律型荷物搬送ロボットの取り組み【後編】

入院患者に寄り添い看護師の業務負担を軽減する!自律型荷物搬送ロボットの取り組み【後編】

入院患者に寄り添った取り組みを行う病院

近年の高齢化の進行により医療・介護を必要とする人口が急増する一方で、医師や看護師の確保が難しく、また、「働き方改革」により患者に対する十分な医療・介護の提供が困難になるケースもあるなど多くの課題があります。そのため、限られた人数で業務を回せる体制を構築するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められています。
このような課題を踏まえ、前編では東京女子医科大学病院(以下、女子医大病院)とTHKが取り組む入院患者の荷物搬送を自動化して支援するプロジェクトを紹介しました。女子医大病院の医療安全・危機管理部の部長である世川 修氏は自律搬送ロボットについて「患者さんやその家族、さらには病院職員を支援し、病院経営を支援する一助ともなるべきものである」としたうえで、その導入に際しては、患者と家族のニーズ、医療従事者のニーズ、患者と家族の安全性、ロボットの信頼性、職員の安全性と業務の円滑性、の5つのポイントを満たす必要があると述べています。
後編では、自律搬送ロボットを用いた自動化システムがこれらのポイントに応えられるかを確認すべく、2026年3月に実施された自律搬送ロボットの荷物搬送の試験運転の状況を報告するとともに、今後の展開についてご紹介します。

前編はこちら(入院患者の荷物搬送を自動化して支援するプロジェクトのご紹介)

自律搬送ロボットとカートを着脱させるためのメカトロニクス技術

前編で紹介しましたが、自律搬送ロボットを用いた自動化システムは、患者の入院時に、患者の荷物を載せたカートとTHKのロボットを連結させ、渡り廊下を自律走行・運搬することで、患者とその家族、医療従事者の負担を軽減するものです。
入院時に、総合外来センターで手続きを済ませた患者がエレベーターの降り口に置いてあるカートに荷物を載せます。その後、カートの案内用ディスプレイに従ってロボットへカートを連結すると、ロボットが150mの渡り廊下を自律走行し病室のある中央病棟側まで荷物を運びます。入院手続きを行う総合外来センターと病棟の2階に行くためのエレベーターまでは、人が押して移動する運用としています。

THKの自律搬送ロボットを用いた荷物搬送を自動化して支援するシステムの構想
自律搬送ロボットを用いた自動化システムの構想
THKの自律搬送ロボットと患者の荷物を入れるカート
自律搬送ロボットと患者の荷物を入れるカート

カートは最大60kgの荷物を搬送するため、自律搬送ロボットとの連結部には、走行中の荷重や停止時に生じる衝撃を受け止める強度が必要でした。
そこでTHKは、主力製品である直線運動案内「LMガイド」で培った技術を連結部に応用しました。駆動部にはボールねじ、案内部とクランク機構にはLMガイドとロッドエンドを採用。LMガイドのレールをカートとロボットをつなぐロック機構の閂(かんぬき)として使用することで、重量物のけん引にも耐えられる構造としました。これにより、速度のついたカートからの衝撃を機械的に受け止めつつ、連結・解除時には小型モータで滑らかに動作する機構を実現しました。さらに、連結機構をコンパクトに構成することで、病院側から求められていた、自動化システム全体の大型化や設置スペースの増加を抑えるという要件にも対応しています。
自律搬送ロボットの技術と蓄積されたメカトロニクス技術で、患者支援のための病院側の課題の解決に挑んだと言えます。

THKの自律搬送ロボットとカートの連結部
自律搬送ロボットとカートの連結部
カートとTHKの自律搬送ロボットをつなぐロック機構
カートとロボットをつなぐロック機構
駆動部に使用されているTHKのボールねじ
駆動部のボールねじ
案内部に使用されているTHKのLMガイド
案内部のLMガイド
クランク機構に使用されているTHKのロッドエンド
クランク機構のロッドエンド

重量物の運搬もさることながら、ロボットに150mの直線を移動させることは意外と高いハードルです。景色が変わらないところを自律走行させる一方で、通路では、片側の手すりのみを頼りに歩行する患者や、緊急時に病棟から手術室へ向かうストレッチャーが迅速に通過する場面も想定されます。そこで、自律搬送ロボットはレーザー光を照射し、壁などの障害物に反射して戻ってくる光を情報として、反射物の形状や距離を測定するセンサー「LiDAR」を搭載しています。しかし、標準の2D-LiDARを用いた空間認識は、ストレッチャーのような下部よりも上部が張り出した構造の物体を、空間的に正確に認識することが難しい場合があります。
そこでTHKでは、標準仕様をカスタマイズし、広域な視野角を持つ3D-LiDARを採用しました。これにより三次元の情報に基づいた地図を作成し、移動しながらレーザー光を照射することで地図作成時にはなかった障害物を三次元で検知することができます。この機能により、患者やストレッチャーを押す医療従事者などを避けながら150mの長い渡り廊下を安全に移動することを可能にしています。

THKの自律搬送ロボットに搭載されている3D-LiDAR
先端にある黒い筒状のものがレーザー光を照射する3D-LiDAR

雨天により人通りの多い渡り廊下での試験運転

試験運転は、3月の雨の降る朝9時~12時、上述の入院時の自動運転を模擬するかたちで実施されました。エレベーター脇で荷物を載せたカートに自律搬送ロボットが自動で連結、病棟までの150mの渡り廊下を、患者とその家族、医療従事者の通行や、薬剤を運ぶカート、患者を乗せたストレッチャーの邪魔にならないように自動走行し、そこでカートの連結を解除します。次いで、折り返して逆のルートでエレベーター脇まで安全に自動走行し、エレベーター脇で荷物を載せたカートと連結して病室に向かう…という自動運転が、繰り返し実施されました。
世川氏は、「雨の日の朝の時間帯は、自律搬送ロボットの試験運転にうってつけ」と語りました。朝は医師や職員の渡り廊下の通行が多く、また雨の日には、通常は一度屋外に出てから向かう方が近い売店に行くのにも、濡れないように渡り廊下を通って迂回して行く患者が多いというわけです。さらに床が滑りやすい状態で自律搬送ロボットが安全に走行し停止できるかという点も、検証できるからです。
THKソフトウェアエンジニアの鈴木氏は「自律搬送ロボットの走行スピードは人が歩くスピードに合わせ、150mの渡り廊下の窓枠などの微妙な変化を認識させることでルートを覚えさせました。また、職員や患者・家族の通行の妨げにならないよう、基本的に廊下の左側ギリギリのところを走行させるようにしました。さらに、人とすれ違う時には互いに道を譲り合って通路を塞ぐことのないよう、自律搬送ロボットが「お先にどうぞ」と自動音声を発するよう改良を加えました」と説明します。

試験運転では自律搬送ロボットが、道幅の狭くなる各扉の手前でも、患者やカート・ストレッチャーを運ぶ職員が通過するのを待って、移動を再開するといった、安全で安定した走行が確認されました。

THKの自律搬送ロボットとカートをエレベーター降口付近で連結している様子
ロボットとカートをエレベーター降口付近で連結開始
THKの自律搬送ロボットとカートが連携完了している様子
連結完了(患者は両手が空くことで、通路の手すりにつかまって安全に移動できます。)
女子医大病院の全長150mに及ぶ長い渡り廊下で自律走行・荷物搬送しているTHKの自律搬送ロボット
全長150mに及ぶ長い渡り廊下で自律走行・荷物搬送
ストレッチャーが通過するまで待機するTHKの自律搬送ロボット
ストレッチャーが通過するまで待機
病棟への狭い通路で患者さんを優先させるよう待機するTHKの自律搬送ロボット
病棟への狭い通路では患者さんを優先させるよう待機

医療現場におけるロボット活用のさらなる可能性

女子医大病院の事務長である丸地 伸氏は、「少子高齢化で医療従事者の採用が難しい中、自律搬送ロボットの導入によって患者とその家族の支援となり、移動・搬送に関わる業務を引き受けてくれることで医療従事者が本来の業務に専念できることは、大変ありがたいです。病院のDX推進の一環としてロボットの活用は大歓迎です。今後は、患者の検体を運ぶロボットを取り入れることなども検討しています」とロボットの利活用による病院経営の改善に期待を寄せています。また、「現在は自律搬送ロボットを女子医大カラーにしていただいていますが、この取り組みを患者に周知させ、積極的な利用を促すため、女子医大公式マスコットキャラクターの「ジョシー」をボディーにあしらうことや、ロボットに愛称を付けることも検討しています。」と語りました。すでに、カートの台座に芝生を敷いてクッション性を持たせるとともに印象を和らげるといった工夫も施されています。
本プロジェクトを導いた東京女子医科大学の講師である吉光喜太郎氏は、「今回は患者やその家族と医療従事者の負担軽減に貢献するテーマを調査して自律搬送ロボットの導入を進めましたが、病院のDX化という観点から病院全体を見た時にできることはまだまだ多いと考えています。一方で、患者・家族参加型医療の観点からは、患者とその家族からの意見を取り入れたロボットの利活用を進めていきたいですね」と語りました。院内では子どもを乗せられるカートにしてほしい、自律搬送ロボットを1台ではなく2、3台に増やしてほしいという期待の声も寄せられています。

女子医大病院スタッフ、東京女子医科大学講師とTHK社員
左から事務長 丸地氏、医療安全・危機管理部部長 世川氏、THK鈴木氏、吉光氏

医療現場におけるTHKの自動化支援

医療現場において、THKの自律搬送ロボットやLMガイドをはじめとするメカトロニクス技術を活用した自動化支援が活躍できる場面は極めて多いと思われます。THKはこれからも、医療現場が抱えるさまざまな課題の解決に貢献できるよう技術開発に取り組んでまいります。
医療現場をはじめ、さまざまな現場での自動化をお考えの方は、ぜひお気軽にTHKまでご相談ください。

問い合わせ先

お問い合わせフォーム

関連記事