2025年08月20日
製品
「標準品だけが正解じゃない!」ボールスプラインのカスタマイズで最大限の性能を引き出す方法
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前回の記事では転がり案内であるボールスプラインを採用することで精度維持、耐久性向上、コストダウンというメリットがあることについてご紹介しました。今回の記事では、装置ごとに合わせたカスタマイズによる装置性能をさらに向上させる方法について、お客様の採用事例と共にご紹介します。
前回記事:「摩耗が早い・精度が出ない」その課題を転がり案内のボールスプラインで解決!「標準品では満足できない…」そんな課題にお応えするカスタマイズ対応
多くのエンジニアが機械設計を進める中で、「既存の標準品ではどうしても満たせない要件がある」という課題に直面することがあります。特に、高精度な位置決めが求められる機構や、特殊な環境での使用を想定した機械では、標準仕様では対応が難しい場面が少なくありません。
そこでご提案したいのが、ボールスプラインのカスタマイズです。寸法や材質の変更、表面処理の最適化などのカスタマイズが可能で、用途に合わせた最適なボールスプラインを実現します。設計者が抱える課題を解決し、装置の性能を最大限に引き出すことが可能です。
ボールスプラインのカスタマイズで実現できること
装置の制約や使用環境により、標準仕様では適さない場合もあるかもしれません。
ボールスプラインは、お客様のご要望に合わせて以下のような対応が可能です。
寸法の変更
標準品の長さや外径が装置に適さない場合でも、お客様の仕様に合わせた寸法での製作が可能です。

表面処理・熱処理
耐摩耗性や耐腐食性を向上させるために、表面処理や熱処理を施すことで寿命の延伸に繋がります。表面処理については、THKでは3種類をご用意しています。
- AP-HC(工業用硬質クロムめっき)
工業用の硬質クロムめっきに相当するもので、 マルテンサイト系ステンレス鋼とほぼ同等の耐食性が得られます。また、皮膜硬さが750HV以上と非常に硬いため耐摩耗性に優れています。 - AP-C(工業用黒クロム皮膜処理)
耐食性の向上を目的とした工業用の黒クロム皮膜処理により、マルテンサイト系ステンレス鋼よりも低コストで、それ以上の耐食性が得られます。 - AP-CF(工業用黒クロム皮膜処理 特殊フッ素樹脂コーティング)
黒クロム皮膜処理+特殊フッ素樹脂コーティングの複合表面処理で、高耐食性を要求される場合に適しています。

材質変更
高温環境、クリーンルーム、非磁性環境など、特殊環境で使用する場合、使用環境に適した材質の選定が必要となります。
- ステンレス鋼
耐食性が求められる環境下で、防錆対策に貢献します。
- 非磁性材質(特殊合金THK-NM1 )
以下の特長により、さまざまな特殊環境下においても使用できます。
非磁性:比透磁率が1.005未満で、チタンと同等
高硬度:熱処理により高硬度を確保
高耐食:腐食性薬剤が飛散する環境下でも装置性能を維持
高温対応:高温環境下で硬度を維持(300℃までの高温領域で使用可能)
防塵
スプラインナット内にごみや異物が流入した場合、異常摩耗や早期寿命の原因となるため有害な異物の流入を防止する必要があります。ごみや異物の流入が考えられる場合は、使用環境条件にあった効果的な密封装置や防塵装置を選定することが重要です。
ボールスプラインには、防塵用部品として耐摩耗性に優れた特殊合成ゴムシールがありますが、さらに防塵効果を高めたい場合には形番に応じてフェルトシールもご用意しています。

予圧や剛性の調整
高精度な位置決めを可能にするため、用途に応じた適切な予圧を与えます。

有限ストローク
ボール循環機構を無くすことで、転がり抵抗の変動値を軽減することが可能になります。
ショートストロークでスムースな動きが必要な箇所に最適です。

カスタマイズで得られる最適設計とは?
このようなカスタマイズにより、ボールスプラインは単なる部品ではなく、装置全体のパフォーマンスを向上させる重要な要素となります。カスタマイズすることで、以下のようなメリットがあります。
装置の最適化:既存の標準品に合わせた性能に落とすのではなく、最適設計が可能
長寿命化:悪環境においても、適した設計を施すことで摩耗や破損を防ぎ、メンテナンスコストを削減
高精度な動作:予圧調整や剛性向上により、振動やガタつきを抑え、高精度な位置決めを実現
特殊環境への適応:食品・医療・半導体製造など、特定の仕様に適応した設計が可能
ボールスプラインのカスタマイズ設計は、お客様の特定のニーズに応じた最適なソリューションを提供し、高精度、高効率、高剛性、高い信頼性、コスト削減など、多くのメリットをもたらします。
私たちは、お客様のご要求に応じたカスタマイズ設計を通じて、装置の性能と価値を最大限に引き出すことをお約束します。

【導入事例】特殊環境・特殊用途向けの設計事例
カスタマイズしたボールスプラインの採用例を一部ご紹介します。
- 電子ビームを利用した描画装置や測長装置:材質変更
これらの装置では磁性が大きな影響を与えます。極めて低い比透磁率の非磁性材料を使用したボールスプラインにより、装置の安定した動作を実現しました。
- 半導体製造装置:寸法変更・予圧調整
ボールスプラインを「ハウジングアッセンブリー仕様」にカスタマイズしました。通常お客様が組み込む必要のあるハウジングを、製品に組付けた状態で納品する製品で、ボールスプライン単体ではなく、お客様が実際に使用する状態で精度を保証した仕様です。これにより、繰返し位置決め精度が40%向上し、装置の高精度化に貢献しました。精度向上に貢献するだけでなく、お客様での組立コスト削減にも貢献しています。
- 測定機器:有限ストローク
摺動部について、通常のボールの無限循環構造から有限ストローク構造のボールスプラインにカスタマイズしました。ケージ(保持器)にはボールポケットを設けることで、ボール同士の衝突や相互摩擦がなくなることで長寿命と低発塵を実現しました。これにより装置の高剛性・高耐久性を確保し、従来の摺動回数が2,500万回だったところ、約2億回(8倍強)まで耐久性を向上させ、さらに測定精度の安定性も飛躍的に向上しました。
このように、特殊環境や特殊用途に応じた設計変更を行うことで、標準品では実現できない性能を発揮できます。
装置の仕様に最適なボールスプラインを提案!
ボールスプラインのカスタマイズにより、装置の性能向上や長寿命化に貢献します。THKでは、お客様のご要望に応じた最適な仕様をご提案し、設計者が抱える課題の解決に向けて全力でサポートします。
「標準品ではどうしても要件を満たせない…」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。