2025年10月29日
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高速旋回性能を追求!工作機械の複合化・多軸化を実現する旋回軸用軸受とは?
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少子高齢化による労働人口の減少に伴い、製造業では人手不足が深刻化しています。この課題を解決するために生産性を向上させる技術革新が求められており、その具体的な取り組みとして、マザーマシンである工作機械の複合化や多軸化が進められています。これにより、一台の機械で複数の加工工程を効率的に行うことが可能となり、労働力の不足を補うとともに生産効率の向上が図られています。 今回は工作機械の機能複合化によって高速性が求められる旋回軸用軸受についてご紹介します。
高速回転仕様が求められる背景
工作機械の複合化・多軸化の需要が高まってきており、それを受けてロータリーテーブルもさらなる高機能が付与された製品が市場に登場し始めています。近年の複合加工機の傾向として、テーブルにワークの高速回転機能を付与し、旋削加工が可能な機種が増加してきています。
これまでは旋盤で加工した後、5軸加工機で加工をしていましたが、複合加工機の導入によりワークの脱着が無くなり、精度出しの手間も省けることで精度や生産性の向上に繋がります。その旋削加工を可能にするためには旋回軸用軸受に一定以上の回転数が求められます。また、旋回軸用軸受のさらなる回転数の向上は、製品の加工面品位の改善やタクトタイムの短縮に大きな影響を与えるため、各社が開発に取り組んでいます。
高速性と発熱のトレードオフ
しかし、旋回軸用軸受には切っても切れない、「トレードオフ」が存在します。それが高速回転時に発生する発熱です。旋回軸用軸受の発熱による温度上昇は、潤滑状態の悪化や破損だけの問題に留まらず、機械全体が熱変位を起こすことで加工精度が悪化するという大きな問題を招いてしまいます。
なぜ発熱が起こるのか?
「工作機械の多軸化・複合化を支える回転軸受」の記事でもご紹介しましたが、工作機械のテーブルに使用される旋回軸受には高剛性と高精度が求められており、軸受1枚でラジアル荷重・アキシアル荷重・モーメントを全方向に受けられるコンパクトで高剛性なクロスローラーリングが適しています。しかし、クロスローラーリングも例に漏れず、旋回軸用軸受が抱える「トレードオフ」が存在します。
クロスローラーリングは、接触角45度の旋回軸用軸受のため、その構造上、内輪と外輪の間に円錐状の軌道が形成されています。一方、転動体は単一断面径の円筒型のローラーであるため、円錐上の軌道上では位置によって周長が異なり、この周長差がローラー接触面と軌道面との滑りの原因となります。滑り量はローラー接触長の中央部分で最小、接触長の端部付近で最大です。また、ローラー両端部では滑りの発生する方向が逆転することでスピン滑りとなり、さらに摩擦が大きくなる要因となります。

さらに、クロスローラーリングの接触構造では高速回転時の発熱による温度上昇に伴い、「内外輪の熱膨張→ローラーの予圧量増加→スピン滑りによる摩擦の増加→発熱→内外輪のさらなる熱膨張」という悪循環のサイクルに陥ってしまうことが課題です。クロスローラーリングを高速回転で使用するためには、軸受内に潤滑油を多量に供給して循環させることで、直接軸受から熱を奪う強制潤滑給油方式などの対策を講じる必要があります。

高速旋回に特化したローラーリングが誕生!高速ローラーリングRT形
高速回転時の発熱による温度上昇という課題を解決するために、THKでは高速ローラーリングRT形を開発しました。

高速ローラーリングRT形はクロスローラーリングと同じく転動体をローラーにすることで、高い剛性を実現した製品です。ローラーがアキシアル方向に2列、ラジアル方向に1列配列されているため、高速回転に適した内部構造になっています。ローラーの接触角度をそれぞれのローラーに対して90度とすることで熱膨張による予圧増加の影響を小さくしています。また、ラジアルローラーの作動滑りは0となり、アキシアルローラーは作動滑りがあるものの熱膨張による予圧増加の影響を受けにくいです。これにより、RT形はクロスローラーリングでは到達できなかったDpw・N値300,000の高速回転を実現しました。


仕様によって使い分けが可能な旋回軸用軸受
工作機械のロータリーテーブルに適した製品として、THKは高速ローラーリングRT形だけではなく、複列アンギュラローラーリングRW形をラインナップしています。
複列アンギュラローラーリングRW形は、クロスローラーリングと同等のコンパクト性を有し、さらに2倍以上の剛性を実現した製品です。また、「よろめき精度*」の保証が可能な高精度の旋回軸用軸受でもあるため、高剛性や高精度が求められる仕様で力を発揮します。
*よろめき精度とは、軸受の回転精度から形状精度(真円度・平面度)を除いた、純粋な軸受の回転誤差を表します。
RT形、RW形ともに内外輪に取付穴が設けられており、装置組付時の部品点数削減(軸受固定のための押さえフランジの削減)に貢献します。また、予め適正な予圧が与えられており、予圧調整が不要になります。 高速ローラーリングRT形は、高剛性で高速性に特化したローラーリングとなります。RW形の外形寸法を踏襲していることから、要求される装置の仕様毎に使い分けることが可能です。

工作機械の複合化に貢献
今回の記事では、高速性と高剛性に優れた高速ローラーリングRT形についてご紹介しました。THKは加工精度や生産性の向上、工場の省スペース化に貢献できるよう、これからも開発を続け、お客様の声に応えします。
工作機械の複合化・多軸化や、旋回軸用軸受のさらなる高速化についてお困りごとがございましたらTHKへお気軽にお問い合わせください。