第14回精密工学会技術奨励賞受賞のお知らせ
2018年10月05日
当社社員の大橋 智史さんは、9月6日(木)、社団法人精密工学会が主催する「第14回精密工学会技術奨励賞」を受賞しました。
なお、「精密工学会技術奨励賞」は、精密工学分野で顕著な業績をあげた35歳以下の独創性・将来性のある新進気鋭の研究者・技術者に贈られる賞です。
受賞内容 | 第14回 精密工学会技術奨励賞 |
受賞テーマ | 「直動転がり案内における非線形ばね特性を考慮したナノメートル輪郭運動精度の実現」 |
受賞者 | 大橋 智史(技術開発統括部 技術開発第二部 技術開発第三課) |
受賞テーマ「直動転がり案内における非線形ばね特性を考慮したナノメートル輪郭運動精度の実現」
【研究課題】…「象限突起」の発生理由と改善の必要性
スマートフォンのカメラに用いられる小形の非球面レンズや医療用マイクロニードルなどの超微細物の金型の製作には、ナノメートルオーダの高精度な微細円運動が必要です。しかし、円運動などの輪郭制御を行う際に、各軸の運動方向が反転するタイミングで、摩擦が原因による「象限突起」(注1)と呼ばれる突起状の軌跡誤差が生じます。象限突起は、輪郭制御における軌跡精度低下の原因となります。象限突起の補正は重要な技術課題であり、現在に至るまでに多くの研究が行われてきています。
高い輪郭精度が要求される装置の案内部品には、一般的に静圧案内が用いられます。静圧案内とは、 空気や油などの流体を用いて可動部を案内部より浮上させる案内方式です。ゲームセンターにあるエアホッケーをイメージして頂くと分かり易いかと思います。転がり案内では、転動面と
転動体の接触により 必ず摩擦が生じますが、静圧案内では可動部が浮上するので機械接触が生じません。転がり案内に比べ 摩擦が非常に小さくなり、前述の象限突起の問題を回避することが可能です。しかし、静圧案内の運用には、流体循環用のポンプや流体の温度管理や不純物除去等のための付帯装置が必要となり、転がり案内に 較べコスト高となります。このため、転がり案内を用いた装置の輪郭運動精度の向上が求められています。
【取組内容と成果】…「象限突起」の各種改善方法と効果検証の結果
そこで,THKが超精密分野向けに開発した8条リニアボールガイド(製品名:SPS25)を用いた実験装置を作成し,微細円運動での象限突起の発生メカニズムの明確化と象限突起の補正の検証を致しました。発生メカニズムの解明では、LMガイドが動き出しに現れる「非線形ばね特性」
(注2)と呼ばれる摩擦特性が 象限突起に及ぼす影響を明確化致しました。象限突起の補正として、以下の3パターンの補正方法
1)動作中の追従誤差を次回の動作での補正値とする「繰り返し制御」を用いた補正
2)制御対象の数学モデルより制御対象に加わる外乱力の推定を行う「外乱オブザーバ」を用いた補正
3)上記の組み合わせによる補正
を用いて効果検証を行った結果、象限突起を1nm以下になる効果的な補正が可能と確認致しました。
【今後の取り組み】…より大型化・高速化した円運動時の補正効果の検証
今回は半径100μm、周波数0.1Hzの、低速かつ微細な円運動を対象に象限突起補正の検証を行いましたが、より大きな半径で高速な円運動で生じる象限突起の補正効果についても検証を行う予定です。