定格寿命

ボールスプラインの寿命は、同じように製作されたものを同一運転条件で使用しても、バラツキがあります。 このためボールスプラインの寿命を求める目安として、つぎのように定義された定格寿命を使用します。
定格寿命とは、一群の同じボールスプラインを同じ条件で個々に運動させたとき、そのうちの90%がフレーキング(金属表面のうろこ状のはく離)をおこすことなく到達できる総走行距離をいいます。

定格寿命の算出

ボールスプラインは、トルクを負荷しながら運動する場合と、ラジアル荷重を負荷しながら運動する場合およびモーメントを負荷した場合に分けられ、定格寿命は(7)~(12)式によりそれぞれ求められます。(各負荷方向の基本定格荷重は各形番の寸法表中に記載されています)

定格寿命の算出

THKでは、ボールスプラインは50km定格寿命で定義しており、定格寿命(L10)は基本動定格荷重(C)とボールスプラインに負荷する荷重(PC)から次式により求められます。

  • トルク負荷の場合

  • ラジアル荷重負荷の場合

L10 定格寿命 (km)
CT 基本動定格トルク (N・m)
C 基本動定格荷重 (N)
TC 計算負荷トルク (N・m)
PC 計算ラジアル荷重 (N)

※ストローク長さがスプラインナット長さの2倍以下の場合は、上記の定格寿命式が適用されない可能性がございます。

定格寿命(L10)の比較を行う際には、基本動定格荷重が50km、100kmのどちらで定義しているかを考慮する必要があり、必要に応じてISO 14728-1に基き基本動定格荷重の換算を行います。

ISOで規定されている基本動定格荷重の換算式:

C50 定格寿命が50kmとなる基本動定格荷重
C100 定格寿命が100kmとなる基本動定格荷重
使用条件を考慮した定格寿命の算出

実際の使用では稼動中に振動や衝撃を伴う場合が多いため、ボールスプラインへの作用荷重の変動が考えられ正確に把握することは容易ではありません。 また、使用環境温度、ナットを密着に近い状態で使用する場合も寿命に大きく影響します。 これらの条件を考慮すると、次式(9)及び(10)により使用条件を考慮した定格寿命(L10m)を算出することができます。

使用条件を考慮した係数α
α 使用条件を考慮した係数
fT 温度係数 (下記図1参照)
fC 接触係数 (下記表8参照)
fW 荷重係数 (下記表9参照)
使用条件を考慮した定格寿命 L10m
  • トルク負荷の場合

  • ラジアル荷重負荷の場合

L10m 使用条件を考慮した定格寿命 (km)
CT 基本動定格トルク (N・m)
C 基本動定格荷重 (N)
TC 計算負荷トルク (N・m)
PC 計算ラジアル荷重 (N)
トルクとラジアル荷重を同時負荷の場合

トルクとラジアル荷重を同時に負荷する場合は、(11)式により等価ラジアル荷重を求めて定格寿命を算出します。

PE 等価ラジアル荷重 (N)
cosα 接触角  i=負荷条数
LBS形α=45° i=3 SLS形α=40° i=3
LT形α=70° i=2(LT13以下)
i=3(LT16以上)
LT-X形α=65° i=2
dp ボール中心径 (mm)
(各形番の詳細情報「スプライン軸の断面形状」表10、表11、表12、表13参照)
スプラインナット1個または2個密着使用でモーメント負荷の場合

(12)式により等価ラジアル荷重を求めて定格寿命を算出します。

Pu 等価ラジアル荷重 (N)
(モーメント負荷による)
K 等価係数 (下記表14、表15、表16、表17参照)
M 負荷モーメント (N・mm)

ただし、Mは静的許容モーメント内とします。

モーメントとラジアル荷重を同時負荷の場合

ラジアル荷重と等価ラジアル荷重の総和より定格寿命を算出します。

寿命時間の算出

前記の式で定格寿命(L10)が求められるとストローク長さと毎分往復回数が一定の場合、寿命時間は (13)式により求められます。

Lh 寿命時間 (h)
S ストローク長さ (m)
n1 毎分往復回数 (min-1
fT:温度係数

ボールスプラインの使用環境が100℃をこえるような高温の場合は、悪影響を考慮して図1の温度係数を乗じます。
また、ボールスプラインも高温対応の製品にする必要がありますのでご注意ください。

  • 注) 使用環境温度が80℃をこえる場合は、シール、リテーナの材質を高温仕様に変更する必要がありますのでTHKにお問い合わせください。
fC:接触係数

直動案内をするスプラインナットを密着状態で 使用する場合、モーメント荷重や取付面精度が影響して均一な荷重分布を得ることが難しくなります。 このために複数のスプラインナットを密着使用する場合は、表8の接触係数を基本定格荷重(C)、(C0)に乗じてください。

  • 注) 大型の装置に不均一な荷重分布が予想される場合は表8の接触係数を考慮してください。
表8 接触係数(fc)
密着時のスプラインナット数 接触係数fc
2 0.81
3 0.72
4 0.66
5 0.61
通常使用 1
fW:荷重係数

一般的に往復運動をする機械は、運転中に振動や衝撃を伴うものが多く、特に高速運転時に発生する振動や、常時繰返される起動停止時の衝撃などのすべてを正確に求めることは困難です。 実際にボールスプラインに作用する荷重が得られない場合や、速度・振動の影響が大きい場合は、経験的に得られた表9の荷重係数を基本動定格荷重(C)に除してください。

表9 荷重係数(fw)
振動・衝撃 速度(V) fw
微速の場合
V≦0.25m/s
1~1.2
低速の場合
0.25<V≦1m/s
1.2~1.5
中速の場合
1<V≦2m/s
1.5~2
高速の場合
V>2m/s
2~3.5

平均荷重の算出

工業用ロボットのアームのように、前進するときはワークをつかんで運動し、後退の時はアームの自重だけになる場合、あるいは工作機械のようにスプラインナットにかかる荷重がいろいろな条件によって変動するときは、この変動荷重条件を含めて寿命計算をする必要があります。 平均荷重(Pm)とは、スプラインナットにかかる荷重が走行中にいろいろな条件によって変動するとき、この変動荷重条件における寿命と等しい寿命となるような一定荷重をいいます。 基本式を下式に示します。

Pm 平均荷重 (N)
Pn 変動荷重 (N)
L 総走行距離 (mm)
Ln Pn を受けて走行した距離 (mm)
段階的に変化する場合
Pm 平均荷重 (N)
Pn 変動荷重 (N)
L 総走行距離 (m)
Ln Pn 負荷して走行した走行距離 (m)
単調に変化する場合
Pmin 最小荷重 (N)
Pmax 最大荷重 (N)
正弦曲線的に変化する場合

等価係数

モーメントを負荷したときの等価ラジアル荷重算出係数を各形式ごとに下記 表14、 表15、 表16、表17に示します。

ボールスプラインSLS/SLF形の等価係数表
表14
呼び形番 等価係数:K
スプラインナット1個 スプラインナット2個密着
SLS/SLF 25
SLS 25L
0.187 0.030
0.148 0.027
SLS/SLF 30
SLS 30L
0.153 0.027
0.129 0.024
SLS/SLF 40
SLS 40L
0.114 0.021
0.102 0.019
SLS/SLF 50
SLS 50L
0.109 0.018
0.091 0.017
SLS/SLF 60
SLS 60L
0.080 0.015
0.072 0.014
SLS/SLF 70
SLS 70L
0.101 0.016
0.076 0.014
SLS/SLF 80
SLS 80L
0.083 0.013
0.072 0.012
SLS/SLF 100
SLS 100L
0.068 0.011
0.056 0.010
ボールスプラインLBS形の等価係数表
表15
呼び形番 等価係数:K
スプラインナット1個 スプラインナット2個密着
LBS 15 0.22 0.039
LBS20
LBST 20
0.24 0.03
0.17 0.027
LBS25
LBST 25
0.19 0.026
0.14 0.023
LBS 30
LBST 30
0.16 0.022
0.12 0.02
LBS 40
LBST 40
0.12 0.017
0.1 0.016
LBS 50
LBST 50
0.11 0.015
0.09 0.014
LBST 60 0.08 0.013
LBS 70
LBST 70
0.1 0.013
0.08 0.012
LBS 85
LBST 85
0.08 0.011
0.07 0.01
LBS 100
LBST 100
0.08 0.009
0.06 0.009
LBST 120 0.05 0.008
LBST 150 0.045 0.006
  • 注1)LBF形の等価係数KはLBS形と同一
  • 注2)LBR形、LBG形、LBGT形、LBH形の等価係数KはLBST形と同一
    ただし、LBF60形はLBST60形と同一 LBH15形はLBS15形と同一
ボールスプラインLT形の等価係数表
表16
呼び形番 等価係数:K
スプラインナット1個 スプラインナット2個密着
LT 4 0.65 0.096
LT 5 0.55 0.076
LT 6 0.47 0.06
LT 8 0.47 0.058
LT 10 0.31 0.045
LT 13 0.3 0.042
LT 16 0.19 0.032
LT 20 0.16 0.026
LT 25 0.13 0.023
LT 30 0.12 0.02
LT 40 0.088 0.016
LT 50 0.071 0.013
LT 60 0.07 0.011
LT 80 0.062 0.009
LT 100 0.057 0.008
  • 注) LF形、LTR形、LTR-A形の等価係数KはLT形と同一
    ただし、LTR32形はLT30形と同一。
ボールスプラインLT-X形の等価係数表
表17
呼び形番 等価係数:K
ナット1個 ナット2個密着
シール無し
ナット2個密着
シール有り
LT/LF3X,3XD 1.108 0.187 -
LT/LF4X 0.995 0.169 0.135
LT/LF5X 0.980 0.156 0.125
LT/LF5XL 0.430 0.093 0.074
LT/LF6X 0.660 0.124 0.099
LT/LF6XL 0.360 0.079 0.063
LT/LF8X 0.420 0.078 0.063
LT /LF8XL 0.210 0.051 0.041
LT/LF10X 0.251 0.052 0.047
LT/LF13X 0.241 0.046 0.042
LT/LF16X 0.173 0.035 0.032
LT/LF20X 0.129 0.028 0.025
LT/LF25X 0.114 0.024 0.022
LT/LF30X 0.101 0.022 0.020
  • 注) LT-X形とLF-X形の等価係数Kは同一となります。
ボールスプラインLTR形の等価係数表
呼び形番 等価係数:K
ナット1個 ナット2個密着
シール無し
ナット2個密着
シール有り
LTR16V 0.173 0.035 0.032
LTR20V 0.129 0.028 0.025
LTR25V 0.114 0.024 0.022