技術継承とは?課題と進め方をTHK工場の技術継承事例で解説

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製造業の技術継承は、いまや現場の教育にとどまらず、経営課題として扱う必要があります。人材の減少と熟練者の退職が同時に進み、品質・稼働・立ち上げ・多拠点運営に直結するためです。だからこそ、技術継承は「現場の頑張り」ではなく、KPIで回る経営の設計に置き換える必要があります。

本記事では、技術継承が進まない理由とその解決策を整理し、THK工場が実践してきたOMNIedgeスキル管理AIソリューション導入事例をもとに、現場で実装できる具体的なアプローチを解説します。

技術継承とは?

技術継承とは、熟練者が暗黙的に持つ「判断基準」「段取り」「品質の勘所」を、組織として再現可能な形で保持し、教育・評価・配置の仕組みに落として生産能力(品質・稼働・立ち上げ)を維持・拡張する取り組みを指します。

重要なのは、継承対象が「人そのもの」ではなく、結果としての生産能力である点です。この視点に立つと、技術継承は「誰かが教える」活動ではなく、「不足を予測し、計画的に補う」経営活動へと変わります。また、ISO9001やIATF16949といった品質マネジメント規格においても、力量管理は重要な要求事項です。しかし、多くの現場では紙やExcelによる管理が続いており、更新負荷や整合性の問題から形骸化しやすいという課題があります。

なぜ今技術継承が経営課題なのか

日本の製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。政府が閣議決定した2025年版「ものづくり基盤技術の振興施策(ものづくり白書)」によると、製造業の就業者数は2023年の1,055万人から2024年には1,046万人へと減少し、労働力不足が継続的な課題になっています。また、若年層の就業者数は長期的に減少し、高齢層が相対的に増加する傾向にあり、製造現場の担い手構造が変容していることが示されています。こうした傾向は、若手人材の確保や技術継承の難しさを裏付けています。

図1 若年就業者(34歳以下)数の推移

このような背景の中では、経験や勘といった熟練技能が意図せず失われるリスクが高まっています。従来のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)に頼った育成モデルは、人手不足や現場の多忙さにより機能しにくくなっているため、体系的な仕組みとしての技術継承が求められています。就業者数の減少と若年層の減少、教育機会の格差などが重なり合う中で、技術継承は単なる現場の教育テーマではなく、企業の持続的競争力を担保する経営の主要な課題へと変質しているのです。

人的資本開示と技術継承

人的資本開示とは、企業が人材を重要な経営資源(資本)として捉え、採用・育成・配置・評価などの取り組みと、その成果を指標(KPI)とともに分かりやすく示すことです。近年は、経営戦略と人材戦略を連動させ、取り組みを「実施している」だけでなく、「どのような成果につながっているか」まで説明できる状態が求められています。

製造業においては、その中核の一つが技術継承です。熟練技能が暗黙知のまま属人化していると、継承の進捗や喪失リスクを把握できず、教育投資や配置判断の根拠も示しにくくなります。スキルを可視化し、育成・評価・運用を仕組み化することで、「何を・誰に・いつまでに」育成するのかをKPIとして整理でき、技術継承を「説明できる経営活動」へ引き上げることができます。

技術継承が進まない理由

スキル情報が分散し、全体像が見えない(紙・Excel・複数システムの限界)

技術継承が停滞する背景には、「現場の努力不足」ではなく、スキル・資格・教育記録が紙やExcel、複数システムに点在し、全体像を把握しづらい構造があります。結果として、「誰に何を継承すべきか」「いつまでにどのレベルまで引き上げるか」といった優先順位が曖昧になり、OJTも場当たりになりやすく、継承が進みにくくなります。

技術が言語化できていない

熟練者の「勘・コツ・判断基準」は暗黙知になりやすく、文章やマニュアルだけでは再現が難しいのが実情です。この状態で技術継承を進めようとしても、伝える内容が人によってブレやすく、品質ばらつきや不具合再発につながります。ポイントは、暗黙知を無理に言語化し切るのではなく、スキル定義・判定基準・教育履歴を紐づけて再現性を高める設計に変えることです。

教える時間がない・指導者が不足している

現場は生産・品質・安全対応で常に手一杯になりやすく、OJTが後回しになりがちです。「教える人がいること」を前提にした育成モデルは、人手不足の環境では持続しにくく、継承が善意に依存しがちです。また、育成の全体計画がないまま場当たりで教えると、欠員・増産・立ち上げのタイミングで一気に破綻します。

属人化が構造的に残る

属人化はベテランが悪いのではなく、仕組みがないことが原因です。紙・Excelの力量管理表は、更新負荷や入力ミス、更新漏れが起きやすく、精度が担当者個人の力量に左右されます。その結果、欠員対応や配置が記憶頼りになり、最適な人材を迅速に特定できません。

多拠点だとばらつきが生じる

工場や拠点ごとに教育のやり方や評価の基準が違うと、同じ作業でも人によって教わる内容や判断が変わり、品質や教育効果に差が出やすくなります。拠点が増えるほど「各拠点のやり方」が固定化し、応援要員の融通や全社での育成計画づくり、標準手順の横展開が難しくなります。

技術継承を進める方法

技術継承を前進させる最短ルートは、スキルを「棚卸→標準化→可視化→育成・評価・運用」の順に仕組み化することです。場当たり的なOJTではなく、データに基づいて「何を・誰に・いつまでに」継承するかを設計できる状態をつくります。

STEP1 継承すべき技術の棚卸し

棚卸しは「Excelを集める作業」ではなく、生産能力のボトルネック(止まると困る工程・設備・役割)を特定する経営・工場横断プロジェクトです。実務ではまず以下から着手します。

  • 対象範囲を「工程×設備×役割」で固定する
  • 重要工程(品質・停止影響・安全影響が大きい)から優先して着手する
  • スキル・資格・教育記録など、分散している情報の所在を整理し集約できる形に整える

STEP2 標準化

標準化は、多拠点で技術継承を判断基準・品質基準・評価基準まで揃えることで、「誰が教えても同じ結果」へ近づけます。標準化のコツは、「言葉を揃える」より先に、判定の再現性(同じ条件なら同じ評価になるか)を揃えることです。例えば「できる/できない」ではなく、「単独で段取り〜品質確認まで完結できる」など、行動ベースの判定軸に落とし込むと運用が安定します。

STEP3 データの可視化

可視化は「見える化のダッシュボード」ではなく、育成や配置の判断を早めるための意思決定の材料です。

部署・拠点・年代ごとのスキル保有状況を見える化し、退職などで失われるスキルを明らかにすることで、育成強化の優先度を定量的に判断できるようになります。特に効果が大きいのは、年代別の可視化です。「5年後・10年後にどのスキルが不足するか」を事前に把握できれば、後継育成や多能工化を前倒しで計画できます。

図2 資格・スキル保有者の年代別分布

STEP4 育成・評価・運用

最後に重要なのは、育成計画を作ることではなく、育成・評価・更新が止まらない運用に落とし込むことです。

分析結果をもとに「誰に・どのスキルを・いつまでに」習得させるかを設計し、研修・OJT・資格取得などを組み合わせてロードマップ化します。そのうえで、配置・技能伝承・後継者育成までを計画的に実行します。

また、更新漏れを防ぐために、複数部署での確認(ダブルチェック)や期限接近時のアラート通知など、抜け漏れ防止の仕組みを運用に組み込むと定着しやすくなります。

THK工場の技術継承事例

THK工場では、技術継承を「現場任せ」にせず、全社横断の推進体制を構築しました。あわせて、スキル体系・評価基準の統一と、データ品質を担保する運用設計を整備し、技術継承を継続的に回せる仕組みへと移行しています。その結果、スキル項目を従来と比べて倍以上に細分化し、Excelによる二重管理を解消。さらに、部門横断的にスキルを可視化することで、5年後・10年後の喪失リスクを見据えた後継育成を計画的に進められる体制を構築しました。

導入背景、体制構築、移行時の注意点、現場定着の工夫などの詳細は、ホワイトペーパーでご紹介しています。
▼スキル管理AIソリューション導入・活用事例の詳細はこちら

OMNIedgeのスキル管理AIソリューション

OMNIedgeのスキル管理AIソリューションは、社員のスキル・資格・教育履歴・業務経歴をクラウド上で一元管理し、「誰が、どんな力量を、どのレベルで持っているか」を見える化する製造業特化型スキルマネジメントシステムです。部署ごとにExcelで管理が分かれてしまう、ISO監査対応の更新・集計が大変、計画的に多能工化や技能伝承を進めにくい、といった現場の課題を、スキルデータの統合で解決します。

「OMNIedge」スキル管理AIソリューションWebサイトはこちら

特長は、①人財スキルの一元化・可視化、②計画的な人財育成、③最適な人財配置の3点です。スキルマップ(力量管理表)で力量情報を分かりやすく整理し、最新のスキルと連動した育成計画の作成・進捗管理まで一括で運用できます。さらに、帳票・記録管理によりISOやIATF等の監査対応にも活用可能です。

図3 スキル管理AIソリューションの画面例:力量マップ

また、資格・スキルの有効期限をマップ上で把握し、アラート通知で更新漏れを防止できるため、運用の抜け漏れを抑えながら継続的な力量管理を実現します。加えて、カテゴリ・年代・時系列など多様な切り口でデータを分析し、失われるリスクの高いスキルを特定することで、育成や配置の優先順位付けを支援します。

スキルデータは、人材マネジメントだけでなく生産マネジメントにも活用できます。急な欠員時の適材適所のアサインや、設備保全活動の効率化など、現場のロス削減(OEE最大化)に向けた運用にもつなげられる点が、OMNIedgeならではの価値です。

技術継承に関するよくある質問

技術継承を進めるにはどのようなステップで進めれば良いですか?

基本は、棚卸し→標準化→可視化→育成・評価・運用の4ステップです。スキルや資格、教育履歴をデータとして扱える状態に整え、再現可能な運用として現場に定着させることが重要です。

技術継承が進まないのはなぜですか?

技術継承が進まない主な理由は、暗黙知が多くマニュアル化だけでは再現しにくいことに加え、現場が多忙で指導時間を確保しづらく、OJTが属人的な運用になりやすい点にあります。さらに、スキル・資格・教育記録が紙やExcel、複数システムに分散していると、優先順位や育成状況を把握できず、継承の計画が立てにくくなります。多拠点の場合は評価基準が揃わず、拠点間の比較や応援配置が難しくなるため、停滞がより起こりやすくなります。

技術継承を成功させるためのポイントは何ですか?

ポイントは大きく2つです。

1つ目は、スキルを可視化し、喪失リスクと育成の優先順位を議論できる状態を作ること。

2つ目は、現場が無理なく使い続けられる運用にすることです。具体的には、評価基準の統一、入力負荷の最小化、データ品質を担保するチェック体制などを整備し、継続運用できる仕組みに落とし込むことが重要です。

技術継承の定着率を高めるにはどうすればいいですか?

定着を妨げる主因は「忙しい」「メリットが見えない」「評価されない」です。対策としては、月次など定例の運用サイクルを設定し、更新アラート等で抜け漏れを防ぎつつ、育成や配置、キャリア形成と紐づけて「使うほど現場が楽になる/判断が速くなる」状態を作ることが有効です。また、更新・承認の責任分担を明確にし、データが古くならない仕組みにすることもポイントです。

ベテラン社員が技術を教えたがらない場合、どう対処すれば良いですか?

「教えること」が評価されない、教えることで自分の価値が下がると感じる、といった心理が背景にあるケースが多いです。教育貢献を評価に反映し、指導の負担を下げる仕組み(教材整備、判定基準の明確化、育成計画の標準化など)を用意することで、協力を得やすくなります。あわせて、ベテランの役割を「教える人」ではなく「育成を支える要となる人」と位置づけ、安心して関与できる環境を整えることが重要です。

まとめ

本記事では、技術継承を「熟練者の暗黙知(判断基準・段取り・品質の勘所)を再現可能にし、生産能力(品質・稼働・立ち上げ)を維持・拡張する取り組み」と定義しました。人材減少と熟練者退職が同時進行する中、従来型OJTだけでは継承が回りにくくなっており、技術継承は現場の教育テーマではなく、KPIで設計・管理すべき経営課題へと変化しています。

一方で継承が進まない背景には、スキル・資格・教育記録が分散して全体像が見えないことに加え、暗黙知の壁、指導時間不足、属人化、多拠点での基準ばらつきが重なるという構造要因があります。だからこそ最短ルートは、スキルを「棚卸し→標準化→可視化→育成・評価・運用」の順に仕組み化し、「何を・誰に・いつまでに」をデータで設計できる状態を作ることです。THK工場の事例でも、全社横断体制のもとで基準統一とデータ品質を担保する運用設計を整備し、将来の喪失リスクを見据えた計画的な後継育成へ移行しています。さらに、OMNIedgeのスキル管理AIソリューションは、スキル・資格・教育履歴・業務経歴を一元管理し、育成と配置をデータで回すための基盤として、多拠点運用や監査対応の負荷を抑えながら、計画的な人材育成・最適配置を支援します。

THKでは、自社での導入・運用を通じて得た知見をもとに、お客様の技術継承の仕組みづくりを支援しています。技術継承を管理できる状態へ移行したい、現場で回る運用まで落とし込みたいといった課題をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。