1. トップ
  2. THKジャーナル
  3. 製品ジャーナル
  4. 超精密加工を支えるナノレベル精度の超低ウェービングLMガイド

超精密加工を支えるナノレベル精度の超低ウェービングLMガイド

  • 製品紹介
  • 工作機械
  • 半導体製造装置
  • 高剛性
  • 省力化
  • 高精度

繊細な精密加工を施すマシンツールとワークの様子


母なる機械“マザーマシン”という言葉を聞いたことはありますでしょうか。機械といえば自動車、飛行機、時計、エアコン、ロボットなど様々なものが浮かぶと思います。このような機械は数多くの部品から構成されており、それらの部品を材料から加工する機械のことを工作機械と呼びます。また、工作機械で作られる部品がすべての機械の始まりということで、工作機械は別名マザーマシンと呼ばれています。

技術革新で工作機械の高精度加工をさらなる高みへ

工作機械はすべての機械を作るうえでとても大切な機械です。なぜなら、加工される部品は、加工する工作機械の精度を越えることがないからです。これを母性原理といいます。つまり、機械に求める精度が高まっていくと高精度な部品を加工する必要があり、構成する部品の精度以上に高精度な工作機械が必要になります。また、工作機械のみならず、半導体・液晶製造装置、精密測定機器などの分野においても、特に高精度が要求される機種においては年々高精度化が求められ、要求精度がマイクロからナノレベルへと移行しつつあります。ナノレベルの精度を実現するためにはこれまで静圧案内が選ばれることが多くありましたが、近年の直動転がり案内においてもナノレベルの運動精度を実現するべく技術革新が起きています。今回の製品ジャーナルでは、より高精度が求められる工作機械を支えるためにTHKが挑んだ、ナノレベル精度の超低ウェービングLMガイドの開発についてご紹介します。

LMガイドに突き付けられたボール循環の壁

ナノレベルの運動精度を実現するうえでの課題の一つが、ウェービングです。レールやレール取付面を高精度に仕上げ、補正を入れて高い真直精度を得たとしても、ボールの循環によりブロックとボールの相対位置が常に変化し、荷重を負荷しているボール数が変化することで微小な姿勢変位が起こります。この微小な姿勢変位をウェービングと呼んでいます。これが、超精密加工において直線運動部を静圧案内に頼らざるを得ない理由の一つでした。

ボール循環により荷重を負荷している有効ボール数が変化する様子をイラストで表したもの。仮に10個のボールに対してブロックが移動する場合、荷重を負荷しているボール数は7~8個と変化する。

ボール循環による有効ボール数の変化



テーブル運動精度のグラフには細かな変位(=ウェービング)が見られる。

ウェービング評価

きさげが生み出す静圧案内

静圧案内とは、加圧した油や空気を供給することで、可動部と案内面を完全に非接触にした案内です。非接触であることで摩擦抵抗が低く、転がり案内の課題であるウェービングがありません。そのため、高い精度が必要な場合は静圧案内を採用することが多いです。しかし、高精度である一方で、案内面には非常に高い加工精度が求められます。職人がきさげを用いて手作業で加工面を仕上げることもあり、加工には時間がかかります。また、機械に実装するには配管が必要で、継続的なメンテナンスも必要になります。


超精密加工における転がり案内のブレークスルー

THKは、独創的な発想と独自の技術により、直線運動部をころがり化し、「LMガイド(Linear Motion Guide:直線運動案内)」として世界で初めて製品化しました。そして、研究開発を重ねる中で、ウェービングの課題に対する突破口を見いだしました。それが以下の二点です。
➀小径ボールによる有効ボール数の増加
②ボール転動溝を4条列から2倍の8条列へ増加
荷重を負荷しているボールの数が変動することで、微小な変動であるウェービングが発生します。その負荷しているボール数を増やすことにより、その影響を極限まで小さくしました。開発過程では、まずボール径を小さくして有効ボール数を増やすことでウェービング低減を実現しました。さらにボールを小さくすることで生まれたスペースを利用し、条数を4条列から2倍の8条列に増やすことで定格荷重を確保しました。 このアイデアは、有効ボール数をさらに増やすことでボール1つあたりの負荷を減少させ、一層のウェービング低減に寄与しました。それに付随して、剛性も向上しました。もちろん、理論としては難しい話ではありませんが、実現するためには高い加工技術や循環部の最適な設計が必要でした。


超低ウェービングガイドの玉径と有効玉数の変化をイラストで表したもの。玉径を小さくすることで有効玉数が増えている。

ボール径と有効ボール数



静圧案内に匹敵する超低ウェービングLMガイドSPR/SPS形

これらの独自技術を用いて開発したのが、4方向等荷重形であるSPS形とラジアル形であるSPR形です。小径ボールと8条列の採用はもちろん、SPR/SPS形はブロック長さも実用の範囲内で長くしました。これにより、定格荷重を確保し、ボール一つ当たりの負荷荷重が小さくなるとともに、循環の影響によるボールの数の変動と力バランスの変化を限りなく小さくできます。結果、静圧案内に匹敵する超低ウェービング化が可能になると同時に、剛性向上の効果も期待できます。また、静圧案内に比べメンテナンスも容易になります。


超低ウェービングLMガイドSPR/SPS形の製品画像

静圧案内に匹敵する超低ウェービングLMガイドSPR/SPS形



SPR/SPS形内部に小径ボールが並ぶ様子。

超低ウェービングLMガイドSPR/SPS形に採用された小径ボール



超低ウェービングLMガイドSPR/SPS形のガイドレールに8条の溝がある様子

SPR/SPS形に採用された8条溝の転動溝



SPS/SPR形の全長の長いブロックの様子。標準的なLMガイドより全長が長い。

超ロングブロック


【条件】

試験品 SPS25LR
レールスパン 250mm
ブロックスパン 250mm
測定点 テーブル中央上方 250mm 
測定方向 上下、左右 



レールスパン250mm、ブロックスパン250mmのSPS形を動かした際の、テーブル中央上方250mm地点の位置変位(上下方向および左右方向)をグラフで表したもの。

SPS形のウェービング試験結果



超低ウェービング製品のひろがりと装置の高精度化

これまで静圧案内を採用していた箇所へも、転がり案内であるSPR/SPSを選択肢としてご検討いただけるようになりました。
さらにTHKは、2024年10月16日に、SPR/SPS形のウェービング性能を踏襲しながらも、世界標準であるISO規格準拠寸法のボールリテーナ入り超低ウェービングLMガイド(形番:SPH)をリリースしました。
今お使いいただいている既存の転がり案内を置き換えることで、各種装置の精度向上が可能となります。ご興味をお持ちいただけましたら、お気軽にお問合せください。

ISO規格寸法 ボールリテーナ入り超低ウェービングLMガイド (形番: SPH)の製品写真。レールには転動体がとおる8条列の溝がある。

ISO規格寸法 ボールリテーナ入り超低ウェービングLMガイド(形番: SPH)


【ウェービング評価】

凡例 呼び形番 最大ウェービング振幅値 平均ウェービング振幅値
既存製品 0.0634μm 0.0505μm
SPH25 0.0120μm 0.0088μm



ボールリテーナ入り超低ウェービングLMガイド (形番: SPH)のウェービング評価のグラフと既存製品との数値比較。既存製品の最大ウェービング振幅幅は0.0634μmに対し、SPH25は0.0120μm。既存製品の平均ウェービング振幅値は0.0505μmに対し、SPH25は0.0088μmと、いずれも小さい。

ボールリテーナ入り超低ウェービングLMガイド (形番: SPH)のウェービング評価


ボールリテーナ入りLMガイド超低ウェービング(形番:SPH)の詳細はこちら(プレスリリース)
ボールリテーナ入りLMガイド 超低ウェービングSPR形(四方向等荷重形)の詳細はこちら(THKサイト)
ボールリテーナ入りLMガイド 超低ウェービングSPS形(ラジアルタイプ)の詳細はこちら(THKサイト)

問い合わせ先

製品に関する問い合わせ窓口

応用技術統括部 AE部
〒108-8506 東京都港区芝浦2-12-10
TEL: 03-5730-3865 FAX: 03-5730-3918
お問い合わせフォーム

関連記事