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会長CEOメッセージ

THK株式会社 代表取締役会長 CEO 寺町彰博

新体制のもと、スピーディーかつグローバルに
「ものづくりサービス業」としての価値創出を追求

はじめに

年頭に発生した令和6年能登半島地震において、お亡くなりになった方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げます。
微力ではありますが、1月初旬に日本赤十字社を通じて寄付を行いました。被災地の一日も早い復興をお祈りいたします。

社長交代について

当社は2023年11月の取締役会において、寺町崇史取締役専務執行役員が代表取締役社長COOに、私が代表取締役会長CEOに就任することを決議し、2024年1月1日から新体制がスタートしました。
寺町新社長は45歳での社長就任となります。私自身も振り返れば、社長就任時には45歳でしたが、それまでに業務改革を牽引するなかで、経営者としての準備ができていたと感じていました。寺町新社長も、これまで子会社の社長や産業機器事業のトップに立ち、全体を牽引するとともに、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の推進を担ってきたことが、次世代に向けた舵取りを担う準備になったはずです。実際、本人と今後の経営について語り合うなかで、何を基軸にすべきかが見えてきており、環境変化に応じた変革を牽引していく意欲を示していましたので、今こそ世代交代の時期だと判断し、指名諮問委員会における検討・審議を経て、取締役会において選定されました。私も引き続きCEOとして、新体制をサポートしていく所存です。
私が新体制に期待するのは、これまで培ってきた良いところは残しつつ、時代の変化に合わせて大胆に変化していくこと。特に重視しているのがグローバル化の進展です。私自身は年間130日ほど海外に出ていますが、若い社員たちにももっと日本の外に目を向けてもらいたい。その点、寺町新社長は大手商社時代に世界各地を飛び回っていた経験があり、グローバルな視点を持つ重要性を実感しているはずなので、彼が先頭に立って次世代を担う社員の力を結集し、THKをよりグローバルな存在にしてもらえると期待しています。

2023年度業績を振り返って

2023年度は、2026年度を最終年度とする経営目標の2年目となります。経営環境としては世界情勢の混乱等により、需要の回復が予想より後ろ倒しになりました。期待していた自動車関連の設備投資も立ち上がりが遅れ、ICT関連はコロナ禍の「巣ごもり需要」の時点である程度の設備投資が進んでいたため、需要が伸び悩んだ印象です。
こうした環境下にあって売上収益の約6割を占める産業機器事業においては、需要が減少する中で、前半は受注残により売上収益を確保したものの、後半になっても需要は回復しませんでした。残る約4割を占める輸送機器事業においては、コロナ禍の収束と部品供給不足の緩和等により回復基調で進みました。
利益面では生産性向上を目指した各種の改善活動を継続したものの、主に産業機器事業の売上収益の減少により売上原価率は上昇しました。また、コロナ禍が明けて成長施策を本格化したこと等により、販管費比率も上昇しました。
これらの結果、2023年度の連結売上収益は前期比10.6%減の3,519億円、営業利益は前期比31.2%減の237億円となりました。前述したような需要回復の遅れを受け、8月には業績予想を下方修正せざるを得ませんでしたが、修正後の目標は達成することができました。
2024年度の見通しについては地政学リスクが沈静化すれば、期待していた需要回復が進むでしょう。キーワードは「グローバルからグローカル」。半導体産業をはじめとしてサプライチェーンのブロック化が進むなか、ブロック内での設備投資が必要になっています。2023年度は建物への投資が集中しており、2024年度以降はその中身となる設備等への投資が加速しますので、これが業績成長のドライバーとなると考えています。

成長戦略について

当社は成長戦略の柱として「グローバル展開」「新規分野への展開」「ビジネススタイルの変革」を掲げ、変革へのビジョンとしてものづくりサービス業への転換を掲げています。これまでは、直動製品をはじめ「ものづくりの手段」を提供してきましたが、今後はビフォーサービスやアフターサービスも含めたサービス部分の提案を拡大させ、ハードとソフトを融合させたトータルなビジネスとして展開していきます。これにより、機械装置を製造するマシンビルダーだけでなく、実際に機械を使用するマシンユーザーとの接点を拡大させ、貢献度を高めていこうという考え方です。
2024年度以降は、こうした成長戦略をこれまで以上にスピードにこだわって推進していきます。お客様のニーズに先手を打って対応・提案することで、当社に対する期待や信頼、パートナーシップを深めていきたいと思っています。
産業機器事業におけるキーワードが自動化ならぬ「自働化」、生産設備が自ら働く仕組み作りです。「自働化」を進めると現場で微調整する人が不在となり、いわゆる「チョコ停」が大きな被害につながる恐れがあります。そこで、設備内にセンサを組み込む「OMNI edge」を導入し、故障の予兆を検知するといったソリューションを提案していきます。こうしたIoTサービスは予兆保全だけでなく、製造現場におけるロス削減やエネルギー消費削減、CO2排出削減にもつながるため、電気使用量や潤滑油の削減に寄与する直動製品の拡大と併せて、サステナビリティへの貢献度を高められると考えています。これらと並行して、半導体分野におけるナノ領域の高精度や工作機械分野におけるコンパクト、高剛性等、最先端のニーズに応える製品開発に注力します。
輸送機器事業ではCASEを追い風に自動車向け直動製品の開発を加速させるとともに、世界的な潮流であるEVへの対応を強化します。私自身もEVの快適さや楽しさを体感しており、もはやエンジン車への後戻りはないと思っています。当社が独自開発したEVプロトタイプ「LSR-05」を「Japan Mobility Show 2023」において発表したように、部品の軽量・小型化による車内環境の快適化や給電システムの進化による充電時間の短縮および航続距離の拡大等、EVの価値向上に貢献する技術・製品を提案することで、世界の自動車メーカーのEV化を後押ししたいと思っています。
加えて、産業機器事業と輸送機器事業の連携によるシナジー強化も図ります。2023年度も輸送機器事業の生産ラインの一部を産業機器事業の生産に振り分けるといった体制面での連携が利益面で成果を上げました。今後もこうした連携を拡大させるとともに、技術開発面での連携もより強化していきます。

THKの経営全体図
THKの経営全体図

人財育成について

ものづくりサービス業への転換を図るうえで、カギとなるのがデジタル人財です。デジタル技術が社会の隅々まで浸透しつつあるなか、当社はお客様のDXを支援する製品やサービスを提供することと同時に、社内のワークスタイルにおいてもDXを推進しており、それらの牽引役となるデジタル人財の育成に注力しています。
特にコーポレートをはじめとした間接部門の社員は、人がやるべき仕事とAI等デジタルに任せる仕事の切り分けやどのようなデータをどう活用するかの見極め等、より高度なデジタル活用のノウハウや能力を身に付けていく必要があります。
一方で、すべての業務にデジタル人財が必要かといえば、その限りではありません。例えば製造現場でものづくりを担う社員には「3つの道」があると考えています。1つ目は、技術を磨いて「巧」を究めていく道。職人といわれる技能をコストは関係なく徹底的に追及し究める道です。2つ目が、ものづくりの仕方・手法を検討する道。第1の道を歩む人財が究めたものを、広く世界中のお客様にお届けできるよう、一般市場で求められる価格で提供するためのレシピに落とし込む人財です。そして3つ目が、そのレシピを限られた時間内でフレキシブルに量産できる生産ラインを具現化していく道。この道を選んだ人財は、省人化しつつも安定稼働する「自働化」ラインを実現するために、データサイエンティスト的な素養も求められます。
同様に、営業現場においても、リモート会議やチャットボット等のデジタルを活用して効率を追求する一方で、新事業のアイデア出し等、フェイスtoフェイスのコミュニケーションを大切にすべきところもあり、相手のニーズを見極めながら、両者を組み合わせていくことが大切です。
このように、デジタルを重視しつつも、デジタルに頼り切り、任せ切りにならないよう柔軟な視点で幅広い個性を持った人財を育成し、適材適所での活躍を後押しすることで組織全体の価値創造力を高めていく考えです。

ステークホルダーの皆様へ

株主・投資家をはじめとしたステークホルダーの皆様には、日頃のご支援・ご指導に対して深く感謝しており、事業成果をいかに還元していくかを常に考え続けています。
その一環として、近年、社会的に注目されているPBRを重視しており、当社の企業価値向上にはROEを高めることが有効と考え、そのマイルストーンとして2026年度の経営目標においてROE17%を掲げています。その達成には各事業におけるROIC、とりわけその分子であるリターン(利益水準)を高めることが重要と考えています。そのために、各事業における取り組みを加速させるには、資金を設備投資、研究開発、人的投資等の成長投資に充当していく必要があり、これらの資金需要を勘案すると、配当性向は現時点では30%程度を継続することが妥当だと考えています。そのような考え方で進めるなかで、余剰資金が生じた場合は積極的に自社株買いも検討する等、さらなる還元に努める所存です。
当社製品は量産のための試作を重ねてやっと本採用になるもので、収益に結実するまでにはどうしても時間を要します。一方で、納品した製品はお客様のもとで長きにわたり働き続け、価値を創出します。こうしたビジネスの特性上、目先の収益を追うのでなく、10年~20年先を見据えた長期的な視野が自然と培われており、それがVUCA*と呼ばれる不透明な時代を生き抜く力にもなると自負しています。ものづくりサービス業への転換をはじめ、今後の社会を見据えた布石をいくつも打っており、将来の成長に確かな手応えを感じていますので、ステークホルダーの皆様も、どうか長期的な視点を持って当社を見守っていただければ幸甚です。

* VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉で、将来予測が困難な状態を意味する