社長メッセージ
直面するインダストリー4.0・フィジカルAIの世界への適応
国際秩序の不安定化、地政学的な緊張の高まり、労働力の不足等を背景に、世界経済は構造的な転換が求められています。そうした中で、当社を取り巻く事業環境も今、大きな転換点を迎えていると言っても良いでしょう。 特にこの10年を振り返っても、デジタル技術を活用し、製造業を高度に自動化・最適化する取り組みが加速しています。デジタル技術の進歩が製造業に与える影響の大きさは産業革命に匹敵し、産業界は、ドイツのインダストリー4.0の提唱にはじまり、現在、第4次産業革命の真っただ中にあると言われています。
そこにおいては、AI技術を工場等の現実空間に応用するフィジカルAIの導入が、具体性を持って語られるようになってきました。当社が成長するためのキーワードとして、フィジカルAI は欠かせなくなっています。
これらのデジタル技術の進歩を加速させたのが、2020年からのコロナ禍であることは、指摘されても良いでしょう。サプライチェーンの分断化と生産拠点のシフト、そして非接触型の行動パターンやシステムの導入が進み、それがデジタル技術のさらなる進歩を後押ししました。
2021年から2022年にかけてのグローバルでのデジタルデバイスの増産と、中国の需要拡大により、当社の売上収益は2022年に過去最高を更新しました。コロナ禍でサプライチェーンに変化があり、生成AIが登場し、デジタル化が加速する中で、2024年1月に私は代表取締役社長に就任しました。当社もまさに、転換点を迎えた時でもありました。
私としては、「強くすべきところは徹底的に強くし、変えるべきところは勇気をもって変えていく」という思いを持ち、それが私に期待されたことであり責務であると決意して臨みました。就任して3年目を迎えた今も、その気持ちは変わりません。
新たなPMVVの策定とバリューに込めた社員の行動規範の明確化
2024年11月に新たな経営方針を発表し、筋肉質化と成長戦略を両輪とした構造改革を全社一丸となって推進することを宣言しました。持続的に成長するために、事業の選択と集中を進め、ガバナンスを強化し、人財育成にも力を入れる。これまでの既定路線にはなかったことを取り入れれば痛みを伴うことも出てきますが、いずれも不退転の決意で取り組んでいます。
2025年半ばに、会社の方向性と従業員が大切にすべき価値観を改めて明確にして、共有することが大切であると考え、Purpose(経営理念)、Mission(ミッション)、Vision(ビジョン)、Value(バリュー)(以下、PMVV)の策定活動を開始し、2026年1月に社内外に発表しました。グループ全体で構造改革のスピードを上げていくうえで、これで1本の大きな柱が立ったと思います。
「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」という経営理念は、当社の存在意義そのものであり、普遍的なものです。そして、この経営理念を現代において実現するための事業の目的と構造をミッションとビジョンとして示すとともに、その達成に不可欠な従業員一人ひとりが持つべき価値観をバリューとして策定しました。
ミッションの「メカトロエッジ=『ころがる・つながる技術』」には、当社の培ってきた機械の直線運動部における「“ころがり”化」技術を基盤に、メカトロニクス製品とIoT等のデジタル技術を活用した「つながる」技術を組み合わせてソリューションを提供していく意味を込めています。創業者が発明し、諸先輩方が一生懸命お客様の声に耳を傾けながら開発してきたLMガイドは、発売当初から製造現場に革命をもたらした製品として認知されてきました。これからフィジカルAIの世界が広がる中、これまで培ってきたコンポーネントのノウハウだけでなく、IoTで培ったセンシング技術やアクチュエータ、ロボットで培った制御技術と「“ころがり”化」技術を融合させることで、フィジカルAIの世界でも、ものづくりを革新し、社会に貢献していくことは当社の使命です。そして、それを実現するためにも、従来の売り切り型のビジネスの考え方に執着するのではなく、ビジョンに掲げたように「ものづくりサービス業」への展開を目指し、発想を変えて行動していきます。
今回策定したPMVVの中で最も重視したことはバリューの策定であり、そのためプロセスにこだわりました。トップダウンで決めてしまうのではなく、これまでのTHKの強みや弱みを振り返りつつ、これからTHKがPurpose、Mission、Visionを達成し、成長していくためにTHK従業員一人ひとりが大切にすべき価値観を、社員に提言してもらうプロジェクトを立ち上げました。まず、プロジェクトメンバーを社内公募しました。大変多くの社員から応募を頂きましたが、その中から約20名のメンバーを選出し、プロジェクトを進めてもらいました。そのメンバーは、海外赴任経験者、製造現場の社員、グループ会社役員、キャリア採用者も含めた幅広い構成となりました。そこでまとまった案を取締役会で審議し、メンバーに下ろして再検討して、それを何回か繰り返す中で最終案を取りまとめ、「挑戦」「対話」「誠実」の3つを掲げることを決定しました。
当社の歴史は、経営理念にある通り、新しいものにチャレンジをしてきた歴史です。したがって、「挑戦」というのは私たちにとってはごく自然な行動だと思います。
「誠実」も、社訓のひとつに「誠実は信用の基」がある通り、当社の中では当たり前のように行われてきた行動です。製造業の付加価値は現場でつくられます。会社経営における課題解決のヒントも現場にあります。そのため、現場の様々な課題に立ち向かい、解決策を示すうえで、まず誠実に向き合う行動は必須です。
「対話」については、個人の力を鍛えることはもちろんですが、変化の激しい世の中では、これまで以上に社内の階層や部門の壁、年齢、性別、国籍、経験を超えたコミュニケーションを通じて、アイデアを出し合い、結果を出すチーム力を鍛えていくことが、THKの成長には欠かせないということで選ばれました。社外とのオープンイノベーションを進めるためにも大事な行動です。
これらのバリューに従って行動できる人は、将来、AIと人が共存する世の中になっても、なくてはならない存在になっていけると、私は信じています。むしろ、挑戦しない人、対話しない人、誠実ではない人はTHKの社員ではないと、従業員一人ひとりが思えるような会社になっていきたいと思います。そうすることで、THKはフィジカルAIの世界でも、経営理念を実現し続けられる会社になっていると思います。
高収益企業に生まれ変わるために市場が求める独自性を見いだす
当社は新たな経営方針として「ROE10%超の早期実現」を掲げ、2025年2月に経営指標とその実現に向けた施策を公表しました。その中で、輸送機器事業については、当社に期待される資本コストと投下資本利益率(ROIC)を将来的にも厳しく精査した結果、事業の譲渡を決定し、同事業の「選択と集中」を完遂させました。
産業機器事業においては2029年度までに「ROE10%超に必要な営業利益400億円を、自助努力の改革により達成する」という目標値を定めました。それを実現するために、テーマごとにワーキンググループを立ち上げ、専門家の支援も得ながら、計画・実行と結果のモニタリングを行い、全体の効果が不足すればさらに必要な対策を立てて取り組むという、PDCAサイクルの確立に邁進してきました。試行錯誤しながらではありますが、着実に改善しつつ前進していることを実感しています。さらに社員の収益性に対する意識も高まり、この蓄積が今後の我々の強みになると思います。また、この活動を通じて、日本基点のものづくりを維持するためには、コスト競争力の強化が必須であることも見えてきました。さらに成長するためには、より付加価値のあるものを生み出し、日本内外で販売していくことが大変重要です。
高収益な企業体質に変わるために、機械要素部品ビジネスにおいては、医療、工作機械、EV・再生可能エネルギー関連、半導体、物流、ロボット、鉄道・航空機の7つの高成長分野に向けて、付加価値の高い新製品を積極的に提供していきます。
当社は、もともと技術力を持った開発部隊を有していますが、より市場と顧客ニーズに応えたプロダクトマーケットフィットの発想による製品開発を強化していきます。そのために昨年1年間を通して、顧客ニーズをできるだけ吸い上げる仕組み作りから、市場分析や技術的難易度を測り、それに応じた開発優先度や開発人員配置の最適化等、上市までのルールを明確にしました。これにより、成長分野における増益に向けた仕組みが構築されたと思っています。
成長のためには、市場の中でシェアを高めることも大切な要素です。だからといって、横ばかり見ていれば良いかというとそうではありません。競合他社の製品の差別化ばかり考えてしまっては、本当のお客様の課題に応えられているのか分からなくなることがあります。お客様の課題に誠実に向き合うためにも、独自化を目指すことが大事です。
差別化は、往々にして競合他社の製品と比較することから生まれます。しかし、本来、市場で売れるものは、顧客のニーズを起点として、求められることに応えた設計を行うことに尽きると思います。もしそれを追求した結果、結果的に競合他社の製品と同じ仕様になったとしても、顧客が求めていることに応えられているのであれば、それは自然な帰結だと思います。むしろ、そこからさらに踏み込んで顧客と向き合うことで、何に満足されていないのか、デリバリーやサービス、信頼や安全、安心といった本質的な課題が浮かびあがってくるでしょうし、当社としての独自性を打ち出すことができるのだと思います。
バリューにある「挑戦」「対話」「誠実」が、まさに独自性を発揮するための、従業員一人ひとりの行動規範となるのです。顧客と現場の課題に誠実に向き合い、我々にしかできない独自のソリューションを打ち出す大切さを言い続けていきます。
フィジカルAIを支えるためのFAソリューションビジネスの提案
主力である機械要素部品ビジネスに加えて、現在FAソリューションビジネスに注力しています。FAソリューションは、従来の機械要素部品とメカトロ・モジュール、それにIoT・AIの3つの要素を融合して、高付加価値の製品とソリューションを提供するビジネスです。
インダストリー4.0の考えが世界的にも広がり始めた2016年頃から、当社としても様々な取り組みを開始しました。ちょうど10年前になるわけですが、その頃から製造現場の見える化にはじまり、最終的には工場の自律化を目指すことが提唱されていました。その結果、この10年で工場内の様々な工程で自動化が進んできたと思います。そして、現在はフィジカルAIという言葉が出現し、工場全体の自律化・無人化に向けて様々な活動が加速していくと思います。この先の10年後を見据えると、工場のシステムの多くがAIによって制御され、24時間365日稼働する世界になっているでしょう。まさに、ソフトウェア・デファインド・ファクトリーです。そこでは、リアルの世界がバーチャル上で表現され、あらゆる事象がデータ化されて、そのデータから学習を通じてハードウェアを制御するためのAIモデルが構築されていきます。そして、このような大規模なシステムを実現するうえでは、リアルでは、長時間稼働の中でも壊れず、さらに指令された通りに正確に動く機能や、あらゆる事象をデータ化する機能を持ち合わせたハードウェアが、システムを構成するスマートサブシステムとして必要になってきます。当社はこれまで培ってきた独自のコンポーネント技術、制御技術、センシング技術を組み合わせることで、このスマートサブシステムを提案することが可能です。このスマートサブシステムをより強化することで、10年先のTHKは「フィジカルAIを支える会社」と言われる姿が見えてきます。人とロボットが共存する世界においても、ものづくりの世界を革新するソリューションを提供する会社であり続けたいと思います。
バリューを体現する社員を育成・評価する人的資本を最大化させる取り組み
デジタル技術が進歩して、システムやロボットが人に取って代わることがあっても、人財が会社の最も大事な資産であることは変わりません。そのため構造改革の一環として、人的資本を最大化させる取り組みにも挑戦しています。
主体的に付加価値の高い製品やサービスの開発、また品質や生産性向上に挑戦できる人、自らの意見を発信し相手の意見にも耳を傾けて対話ができる人、誠実に課題に向き合い粘り強く諦めずに取り組める人を評価・育成する制度の整備に取り組んでいます。
また、ガバナンスを強化する観点から役員の報酬は業績連動性を高めてきましたが、一般社員にも従業員持株会の入会を通して会社の成長に一緒にコミットして頂くことを推奨してきました。今後はより頑張って成果を出した人には、その分しっかり報われる評価・報酬体系にしていきたいと思っています。
当社は、「心の才能」という言葉を大事にしています。他人や環境のせいにせず、常に前向きに、課題に対してポジティブに向き合う心の才能は、自分でしか育てられないものです。私は当社の目指す人財育成とは、この心の才能を後押しすることだと思っています。これからの時代、常に、自らスキルを上げていかなくてはならないわけですが、まさにそれを可能にする心の才能を躍動させるような仕組み作りに力を入れていきます。そして、当社を「挑戦」「対話」「誠実」の価値観を兼ね備えた人財集団にしていきたいと思います。
対話を深めながら付加価値をつくりだし、お客様の課題解決に取り組む
当社が目指しているのは、これまで培ってきたコンポーネントを基盤に、これからのフィジカルAIの世界で求められるアクチュエータ・制御・センシング機能を備えたスマートサブシステムの提供を通じて、ものづくりの世界を革新し続ける会社であることです。
そのためには、お客様、仕入先様、パートナー様と一緒になって、対話を深めながら付加価値をつくりだし、お客様の課題解決に取り組んでいきたいと思っています。フィジカルAIの世界でも、THKの社名の由来であるToughness、High Quality、Know-howは必要になります。これは普遍的なことで、強化していくことに変わりはありません。
成長しながら、株主資本コストを超えるようなROEを継続し、さらなる成長を期待してもらえる会社であり続けることが、株主様へのお返しだと思っています。これからのTHKにより一層期待して頂ければ幸いです。