事業戦略

産業機器統括本部長 寺町 崇史

2024年度を振り返って

2024年度の産業機器事業は、売上収益2,166億円(前期比0.4%減)、営業利益168億円(前期比24.2%減)と、減収減益になりました。需要は緩やかな回復に向かったものの、2023年度上期における受注残が好水準だったこともあり、結果として減収となりました。特に、半導体製造装置関連の需要については、AIの普及による投資が活発化し、前期から回復基調が続きましたが、スマートフォンやPC等に使用される汎用メモリー向け製造装置の設備投資に回復の遅れがあり、期初の見込みよりも需要は弱含みました。また、中国市場についても、上期は中国政府の経済活性化方針による補助金等の後押しもあり、受注・売上はおおむね堅調でしたが、下期に入ると需要は低調に推移しました。
営業利益については、売上収益の減少に伴う数量効果のマイナス影響に加えて、将来の需要拡大を見越した設備や人財への投資を積極化していたことも、今回の減益の要因です。しかしながら、売上収益、営業利益ともに、2024年11月に修正発表した計画を上回って期を終えることができました。
開発・営業面では、機械要素部品ビジネスの需要が想定どおりに回復しないなか、積極的な市場開拓によって、顧客数と新規開発案件が増加したことは、今後に期待ができる成果です。また、FAソリューションビジネスは、2024年4月に営業部門の組織構成を改編しました。具体的には、今まで点在していたFAソリューションのリソースを集約化することで、より高い技術営業の立ち上げに注力し、成長率にもこだわって進めてきました。その結果、「 OMNI edge」をはじめとした新製品の売上収益は前年度よりも拡大しました。
生産面では、積極的に進めてきた自社生産ラインの自働化にも、引き続き注力しました。これからは、2025年2月に発表した構造改革の道筋に沿って、より進化した自働化ラインを構築していきます。需要拡大を見越した能力増強から、自働化の真の目的であるコスト競争力を高め、従業員一人当たりの売上・利益の向上を図っていきます。そのために、生産設備、各種ロボット、人の英知を有機的に組み合わせ、高収益を安定して創出できる筋肉質な組織体制を目指します。

産業機器事業の進化に向けた組織改革
産業機器事業の進化に向けた組織改革

新経営方針に沿った、今後の戦略・施策

産業機器事業は従来、グローバル展開、新規分野への展開という成長戦略のもと、主に売上収益の増加に伴う数量効果により収益性を高めてきました。それが、2017年から2018年、および2021年から2022年のように、それまで経験したことがないほど需要のアップダウンが激しくなるなかで、需要の大きな拡大局面での対応スピードに重きを置いて、意思決定から設備稼働までに約2年かかることを踏まえて先行的に生産能力の増強をしてきました。しかしながら、この1、2年で世界経済のブロック化や需要地の新興国へのシフト等が顕著になり、生産地が一極集中から分散化し、一気にではなくランダムにそれぞれの地域とその周辺で需要の山が起きるような動き方に変わってきています。このような背景から、今後は、新経営方針の「ROE10%超の早期実現」に必要な営業利益400億円超を実現するために、これまで投資して得た有形・無形の資産を徹底活用し、顧客ニーズに対応しながら、収益性を改善していきます。
具体的には、2025年度からの構造改革期間において、生産体制の最適化や新たなITシステム導入に伴う業務効率化等による固定費削減によって、約60億円の利益を積み上げます。加えて販売価格の適正化、材料・部品購入価格の最適化等による変動費比率改善によって、約144億円を積み増していきます。実行に際してはモニタリングを徹底し、数字が足りなければさらなる施策を追加するなどPDCAによりその実効性を高め筋肉質な体質へと変革していきます。
また、LMガイドをはじめとする機械要素部品ビジネスにおいては、産業構造の変化を踏まえて、グローバルで市場拡大が期待できる「重点7分野」を設定し、販売を強化します。このため7分野ごとのニーズや成長ポテンシャルに関する分析精度を強化し、さらに狙うべき利益構成に応じて、開発・生産・販売リソースを最適化し、利益を最大化させていきます。

機械要素部品ビジネスのリソース再配置
機械要素部品ビジネスのリソース再配置

FAソリューションビジネスについては、自働化、労働力不足、サステナビリティ等、様々な社会課題が製造現場で複雑化していくなかで、マシンビルダーに加え、その先に存在する広範なマシンユーザーの課題解決にもフォーカスしたビジネスです。これを強化するために、2025年度は、FA製品の開発等に従事する人財リソースを、技術分野やプロジェクトごとに再編し、製品・ソリューションの付加価値をより一層高めていきます。「 OMNI edge 」については、製造現場で蓄積されている膨大なデータを活かしお客様の課題解決につながる新たなソリューションの開発・市場投入に、引き続き注力します。これらによって、「メカトロ・モジュール」と「IoT・AI」関連のソリューションで、2024年度は計300億円超だった売上規模を、2029年度までに約1.5倍の450億円超にまで拡大させていきます。そして、各分野のお客様が直面する課題や潜在的なニーズを反映させた、今までにない新しい製品・ソリューションを市場に投入する一連のサイクルを、付帯サービスも含めて「仕組み化」していき、「ものづくりサービス業」への転換を果たします。

FAソリューションビジネスの成長
FAソリューションビジネスの成長

これらを達成する大切なポイントは、経営マネジメント層と現場を支える従業員が、同じベクトルを向いていることです。そのために、社長自ら、日本国内外の主要な事業拠点に足を運び、新経営方針の狙いと施策の中身を、直接説明する機会を設けてきました。個々人の意識・行動変化を促す仕掛け作りにも取り組んでおり、今後は従業員の行動変化を客観的に評価する仕組みを、人事制度に加えることも検討しています。このように意識と仕組みの両輪をかみ合わせ相乗効果を出し、変革していきます。

輸送機器統括本部長 槇 信之

2024年度の振り返りと今後について

輸送機器事業はL&S(リンケージアンドサスペンション)部品や直動コア技術を応用した自動ブレーキ用ボールねじ等の自動運転技術に必要な要素部品を手掛けています。
2024年度は自動車業界における部品供給不足の緩和等により前半は堅調に推移しましたが、後半にかけて自動車の生産と販売が落ち込むなかで、売上収益は為替の円安の影響等により1,361億円(前期比1.3%増)と増収となりましたが、営業利益は6億円(前期比64.5%減)と黒字を確保したものの減益となりました。
直近の状況を振り返ると、2018年度~ 2022年度まで営業損失が続くなかで2度の減損損失を計上しました。そのようななか、リカバリープランを掲げ収益性改善に向けた取り組みを進め、2023年度に黒字転換したものの、その後も投下資本利益率(ROIC)が資本コスト(WACC)を上回れず、投資家、株主の皆様の信頼を損ねる状態が続いています。これはコロナ禍や自動車業界そのものの大変革という外部要因よりも、そのようななかで収益性改善に向けた抜本的な対策を講じられなかったという内部要因が大きいと考えています。
したがって新経営方針として「ROE10%超の早期実現」を掲げるなか、輸送機器事業においてWACCと、現在と将来のROICを厳しく精査し「選択と集中」を進めることとしました。2024年12月にはTHKリズムマレーシアの生産拠点の閉鎖を決定するとともに、カナダの一部生産拠点の閉鎖、中国の生産拠点での製品集約等も進めていますが、構造改革期間内にあらゆる選択肢・可能性を排除せず、これまでとは次元の異なる「選択と集中」を完遂し、株主・投資家の皆様のご期待にお応えします。

輸送機器事業の構造改革のポイント