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社外取締役対談

社外取締役対談 対話とスピードでガバナンスを進化させ、世界で存在感を高めていく 社外取締役 上田 良樹 社外取締役 大村 富俊

THKは2026年度を最終年度とする5か年計画において、市場平均成長率を上回る成長を目指しています。そこで企業価値向上の基盤となるガバナンスの実現に向けコーポレートガバナンス・コードの強化を図る一方、外部ステークホルダーの諸要請にしっかりと応えるため社内外の取締役・監査等委員が連携して取締役会の実効性向上に取り組んでいます。
今回は社外取締役の大村氏と上田氏のお二人に、ガバナンス強化のポイントや今後の課題について伺いました。

Q 社外取締役への就任以降、取締役会の実効性についてどのように感じていますか。

上田  私が就任した2016年以降の取締役会の実効性は、着実に高まっています。と申しますのも、取締役会でも我々からの様々な課題提起に対して建設的に議論がなされ、真摯な対応をしてくれる等、風通しの良い企業風土が根付いているからです。一例ですが、社外取締役で議論し「従来同日開催だった執行役員会と取締役会の開催日を分け、落ち着いて議論したい」「産業機器・輸送機器の2事業本部から四半期ごとの概況報告を行うことで中長期視点の議論を深めたい」といった内容を取締役会へ提言したことがあります。これに対し、当時の寺町社長(現会長)をはじめ、取締役会全体が我々の提案をすぐに実現してくれました。さらに、取締役会用の資料が事前に準備され十分に読み込む時間が確保される等、状況把握に向けた配慮がなされています。また、役職員のコーポレートガバナンス・コードに対する意識が高く、社外取締役として非常に安心感があります。

大村  同感です。私も上田さんと同じ2016年に就任しましたが、その頃の取締役会はまだ「意思決定モデル」の延長線上にありました。しかし同年の監査等委員会設置会社への移行に伴い、監督機能強化に踏み出しています。中でも実効性評価についてはこれも一例になりますが、取締役の自己評価分析だけではなく社外有識者も交えて議論したほうが良いとの提言に対し、早速次年度の取締役会から実践されました。このように取締役会のPDCAサイクルが非常に有効に回っていると感じます。現在では2事業本部における中期経営計画の進捗や今後の展開も報告され、議論の解像度が上がっています。加えて私は、現場の空気感を知ることも非常に大切だと感じ、他の社外取締役とともに2023年度は山形工場、山口工場、岐阜工場、THKリズム浜松工場等、様々な拠点を往査しました。結果として、拠点トップや管理職31名と面談しましたが、経年の変化を観測しつつ経営トップと意識を共有することで多くの有効な気づきが得られています。また、財務経理や内部監査等、コーポレートの重要機能を担う部門とも緊密に連携し、時には企業会計についてかなり突っ込んだ議論をすることもあります。こうした全社を挙げた対話も、取締役会の進化の土台になっていると思います。

Q では取締役会の実効性をさらに高めていくために、必要なことは何でしょうか。

上田  今後の課題は、取締役会の付議基準の見直しです。現在の付議基準は2015年のコーポレートガバナンス・コードが出る前に定められたため、モニタリングモデルにそぐわない側面があることは否めません。コーポレートガバナンス・コードの要請を踏まえて付議基準をアップデートし、中長期の経営戦略・方針に関する議論を深めていく必要があると思います。

大村  そうですね。中期経営計画の最終年度である2026年度に向けて執行部隊だけの観点ではなく、社外を含めた多様な観点で経営の目線合わせをしていく必要があるでしょう。幸いに我々社外取締役も様々なステークホルダーからのご意見をインプットする機会を頻繁に用意してもらっていますので、それらを踏まえて現実的に何に注力していくべきかの議題の見直しにはぜひ着手したいところです。

上田  2024年1月に就任した寺町新社長も、我々が提言した課題を強く意識されています。また、2020年以降のコロナ禍で、いち早く現場や取締役会がリモートに移行できたのも、従来から寺町新社長(当時は専務)がDXを先頭に立って推し進めた結果、必要な風土や基盤が出来上がっていたからです。トップが社会の趨勢に機敏に対応していることで、確実にガバナンスの実効性が高まってきていると感じます。当社をより強い会社にしていくために、我々も協働したいと思っています。

Q 社外取締役から見て当社事業におけるリスクと機会、そしてそれらに対する当社の現在の取り組みや課題をどのように捉えていますか。

上田  精度の高いリスクマップをベースにリスク管理委員会において定期的に議論を行い、年1回の取締役会でレビューしています。現在、輸送機器事業の採算性が当社の課題の一つに挙げられていますが、既に様々な対策が打たれており、リスクをチャンスに変える足固めが進んでいます。

大村  当社のリスクと機会は、有価証券報告書や統合報告書でテーマ別に網羅的かつ踏み込んだ開示がなされています。一方で、開発・設計、調達・購買、生産、流通、販売といったバリューチェーンを段階ごとにリスクと機会で精査していく手法もあるでしょう。当社の最大の強みは「お客様視点」「イノベーション」であると私は考えていますが、これらをバリューチェーンの各段階で実践する時、どのようなリスクと機会が発生するか。特に、当社が重視する「販製一体体制」は、地政学リスクとも表裏一体です。そうした観点で外部環境を分析し直すと、新しい課題が見えてくるのではないでしょうか。

上田  確かに、リスク分析の精度向上は今後の伸びしろですね。当社のビジネスがグローバルから「グローカル」へと変化している一方で、現在の地域トップは日本人が多い状況にあります。ここで1段ギアを上げて、ローカルネットワークを最大活用するための体制作りが必要でしょう。世界各地に拠点を構える企業では、往々にして地域ごとに収益力や人事評価の差が生じてしまうものですが、これがスピーディーな事業展開の足枷になり得ます。幸い、当社はグローバルでロイヤリティの高い企業ですので、方針が打ち出されれば変革は進むと思います。前職の総合商社での経験等も活かして世界中の経営資源を最大化するための仕組み作りのお役に立ちたいと思っています。

大村  上田さんのご示唆である「スピードアップ」に同感です。不確実性の高い時代、様々なリスクに的確かつ迅速に対応することが、企業価値を高めていくためには非常に重要でしょう。最近はESGを切り口としたリスクと機会を分析することが浸透しており、取締役会でも頻繁に議論が行われています。

上田  経営としても環境リスクを重視しており、電動化や脱炭素といった環境ニーズにマッチした事業はビジネスチャンスとして捉え注力しています。その一例が、当社が独自開発して「Japan Mobility Show 2023」に出展したEVプロトタイプ「LSR-05」。イノベーションの粋を集め、日本および海外の自動車メーカーにリアリティを持って先行提案するセンスにとても感心しました。

大村  私も「LSR-05」の展示には驚きましたね。自動車メーカーではない当社が実走行可能な車体を作り、自動車部品の優れた点を強調してしまうという迫力あるPRに、イノベーションへの並々ならぬ意欲を感じ感銘を受けました。

Q 経営目標の達成と、企業価値向上のための課題は何でしょうか。また、これらの達成に向けて、従業員に期待することは何ですか。

上田  現状では経営陣の明確なメッセージや方針が現場まで細分化されて落とし込まれ、良い意味でのトップダウンが機能しています。一方で、今後の成長を見据えると、次世代の経営人財を早い段階から育成する仕組みも必須でしょう。若手社員が事業全体を見渡せる環境を増やしたり、ナンバー2を前線に出していくような制度を設ければ、ボトムアップで経営を突き上げていくパワーも活性化できるのではないでしょうか。今の時代、必ずしも経験則に基づかないデータドリブンな判断が可能ですから、その分、考えることを大切にしながら、常にアンテナを高くして、活力のある「下意上達」を実行していってもらいたいですね。

大村  売上収益の目標5,000億円は外部環境が改善すれば達成できますが、営業利益・営業利益率の向上は容易ではないと思っています。改善する方法は売上単価を上げるか、コストダウンを図るか。前者は製造業にとってはなかなか難しく、生成AIのような技術革新をいかに活用するかがカギになるでしょう。ただし、後者のコストダウンは、「自働化」・省力化が進めば数字に表れてきますし、材料領域でのイノベーションにも期待できます。数%の削減を目指すのではなく、ぜひ大胆な視点で進めていただきたい。先日、改めて当社の50年史に目を通していたところ、「50%のコストダウンを実現した」という過去のトピックが目に留まりました。当社が創業以来新しい風を生み出してきたという過去のDNAを受け継いだ社員一人ひとりがイノベーションの気概を持って、目標の達成に取り組んでほしいと願っています。

上田  先ほど大村さんが挙げられた「お客様視点」「イノベーション」という2つの強みは、当社が打ち込んでいる「ものづくりを良くするためのエコシステム」の構築に通じています。今後は、その一つである「OMNI edge」をはじめとした事業プラットフォームをさらに活用していくために、グローバルでの認知度を向上させていくことが重要です。経営トップの言葉を借りれば“光のスピードで”、デファクト・スタンダードを取ることが目下の課題となるでしょう。時間とシェアを獲得するためのM&Aも視野に入れながらチャンスを掴んでいく、そのスピーディーな意思決定においても我々社外取締役の経験を活かせるよう、引き続き密な対話を重視し、構想段階から議論に加わっていきたいと考えています。