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社長メッセージ

THK株式会社 代表取締役会長 CEO 寺町彰博

就任1年目は、ステークホルダーと誠実に向き合い、意見交換を積極化

私、寺町崇史は2024年1月、次世代に向けた経営体制の強化を図るため代表取締役社長に就任し、1年余りが経ちました。振り返ると、寺町彰博代表取締役会長(前社長)が担ってきた、最高執行責任者としての任務を果たすことを心掛け、試行錯誤を重ねてきたように思います。また会長からは、グローバルな視点でのものの見方や先見性を今も学ばせていただいています。
社長就任時には、THKらしさは堅持しつつ、「強くすべきところは徹底的に強くし、変えるべきところは勇気をもって変えていく」という所信表明を行いました。「THKらしさ」とは、経営理念である「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」に凝縮されています。この経営理念の実現のため、新しいものづくりにチャレンジしてきた人財が、世代を問わず各部門で活躍しています。これからも、産業界の変化に適応すべく、個々の人財が新しい知見を得て、変えるべきところは勇気をもって変えていけば、THKは世の中に不可欠な会社として持続できるという確信を持っています。
私は社長就任後の1年余りで、株主・投資家の皆様、お客様、従業員、およびサプライヤー様との意見交換を積極化してきました。このような場では、入社時の初心を忘れず、誠実な姿勢で向き合うように努めています。また、各種制度の運営や組織の活動状況を正確に伝えるために、情報の透明性確保にも留意しています。ステークホルダーとの信頼関係を構築・維持していくにあたっては、この2点を大切にしています。

効率性を重視した経営へのシフトチェンジ

当社を取り巻く環境は、デジタルテクノロジーの進展、地球環境保護機運の高まり、そして先進国の生産年齢人口減少等の様々な課題に直面しています。一方で、これらの課題に対応した当社の様々なソリューションへのニーズの高まりや半導体関連、自働化・ロボット化などにおける需要の拡大を背景に、成長ポテンシャルは増大しています。そのようななか、2022年2月に「2026年度経営目標」を掲げ、産業機器事業では市場平均成長率7%の前提で先行投資を積極化し、輸送機器事業では収益性が低下するなかで、まずは黒字の定着とその後の利益成長を目指しました。
しかしながら、地政学リスクの高まり、インフレの進行、中国経済の低迷などにより先行きの不透明感が増すなかで、事業環境は当時と様変わりしました。具体的には、これまではグローバル経済の仕組みのなかで需要の波は大きなアップダウンを繰り返してきました。このため一気に押し寄せるように次の需要の山が来ることを想定し、即時に対応できる体制作りを進めてきました。しかしこの1、2年で急速に世界経済のブロック化、需要地の新興国へのシフト、生産地の一極集中から分散化などにより、需要の山が一気にグローバルに押し寄せるのではなく、複数の地域・分野でランダムに起き、そこに大きな山が混じってくるような動き方に変わってきました。したがって、現在は大きな山を待ち受けるよりも、より積極的に自ら各方面の山を掴みに行く姿勢への転換が必要です。
そのような状況下で、意思決定から設備稼働までに約2年かかることを理由に先行的に実施してきた投資負担が収益を圧迫したことなどにより、従来の経営目標の達成は困難と判断しました。さらに当社の自己資本利益率(ROE)が低迷するなど株主の皆様のご期待に応えられていない状況が続いていました。これらの背景から私自身、より効率性を重視した経営へのシフトチェンジの必要性を感じました。
そこで2024年11月に、当社の株主資本コストを超える水準である「ROE10%超の早期実現」を新たな基本方針とし、2025年2月には、「ROE10%超」達成までの道筋を公表しています。収益性、資本政策、およびコーポレートガバナンスと全方位的に実現までの当社の課題を設定し、収益性については聖域なき構造改革を断行し、筋肉質な経営体質への転換を図っていきます。基本的に需要増に伴う売上収益の増加には頼らず自助努力でこの目標を達成します。さらに将来の成長分野へは規律性高く投資を実行し中長期的に伸ばしていきます。
今回定めた経営目標を達成するカギは、3つあると思っています。1つは「人的資本」です。創業から現在に至る半世紀余りの軌跡では、産業・社会が激しく揺れ動く局面が何度かありました。その度に私たちは、「人財のチカラ」で荒波を乗り越えてきました。お客様の課題にその都度向き合い、創造開発型企業として「世に新しい風」を吹き込んできたという自負もあります。したがって、現在の厳しい事業環境も、従業員が一丸となって突破していけるという信念を持っています。また、人財の面で当社が優れている点は、会社への信頼や貢献意欲が高く、今回の構造改革の背景や狙いも真剣に受け止めており、思考・行動を自ら変えようとしていることです。ROE10%超を目指すなかで、従業員持株会員への株式付与や連結営業利益に連動させた賞与増額の仕組みも導入しています。
2つ目のカギは「製品・サービスの競争優位性」です。産業機器事業の「LMガイド」は当社がパイオニアであり、世界市場でトップシェアを有しています。当社製品群の優位性を補完しているのは、現地販売・現地生産を自前で行う「販製一体体制」です。これまではスピード感を持って次の需要の山に備えることに主眼を置いてサプライチェーンを組んできましたが、世界経済のブロック化と新興国への需要のシフトが進むなか、これを組み直すとともに、現場レベルの詳細な施策の積み上げにより固定費・変動費を削減します。実行に際してはモニタリングを徹底し、足りなければさらなる施策を追加するなどPDCAによりその実効性を高め筋肉質な体質へと変革していきます。さらに、地域ごとのお客様のニーズをダイレクトに正しく把握し、技術開発部門へフィードバックして、新たな製品やソリューションの開発へつなげていく仕組みと仕掛けを強化していきます。このサイクルをしっかり回していくことも、競争優位の維持には不可欠だと認識しています。
そして3つ目のカギは「資本政策」です。先に述べたとおり収益性を高める一方で、ROEの分母である自己資本のコントロールも図っており、ROE10%超を達成するまで、自己資本配当率(DOE)8%の配当方針をはじめとする資本政策を継続します。2024年12月から2025年3月にかけては400億円の自己株式を取得しており、今後も目標達成状況などを鑑みながら機動的に取得を検討します。

米州・欧州・中国など、主要な市場ごとの特性を踏まえた戦略を推進

地域別のマーケット戦略についても、言及しておきます。米州は、ハイテク革新の世界的中心地としての勢いが継続しています。自動車産業、医療関連、物流など様々な分野における自働化投資や、最先端の半導体製造装置、航空・宇宙、ヒューマノイドロボットなどの開発に伴う新たな需要など、大きなチャンスがいたる所にあり、今後も成長が期待できる市場です。お客様ごとの特徴あるニーズにきめ細かく対応していきます。
欧州は現在、ドイツが厳しい状況にありますが、ドイツから東欧への製造シフト、南欧での物流倉庫の自働化ニーズなどにより、様々な引き合いが増えています。さらに幅広い需要を獲得すべく、代理店との協業やドイツから自社の電子商取引をスタートさせます。
中国はこれまでと変わらず非常に大きな市場であり重要な地域です。直近では民生品と機械設備の買い替え需要が起こり、受注は右肩上がりとなっています。
中国以外のアジア地域は生産の受け皿として重要度が増してきています。そのなかでもインドは世界一の人口を抱え、グローバルサプライチェーンの要衝にもなっている魅力的な産業エリアであり、力を入れています。
一方、日本に目を向けると、製造業が直面しているのは人財不足という課題です。自働化投資は待ったなしの状況であり、当社にとっては商機です。もちろん当社においても、引き続き、全ての生産拠点で自働化を積極的に進めていきます。

THK株式会社 代表取締役社長 CEO 寺町崇史

「ものづくりサービス業」として、オンリーワンの事業を創出する

10年ほど前から、お客様が直面する課題が変化し、かつ多様化していると感じています。デジタル化や環境規制への取り組み、労働力不足への対策など、課題は様々です。この変化のなかで、THKは必要とされ続けねばなりません。このような背景から、2022年に「ものづくりサービス業」への転換をビジョンとして掲げています。
それまでの当社は、得意技である「直動」を、既存分野だけでなく、医療機器や鉄道など様々な新規分野に展開してきた経緯があります。ただし、いずれも「もの」中心のビジネスでした。ところが2010年代後半から、IoTを活用した機械の遠隔監視が可能になり、ビジネスが「もの」に限定されなくなりました。機械装置の稼働状況を「見える化」し、そのデータを活用した「サービス」が実現できるようになったのです。これからは、「ものづくり」と「サービス」の両方を通じて、顧客のニーズ変化に対応していきます。
このビジョンには、本業である「ものづくり」と直線運動の技術を進化させる狙いもあります。例えば部品の状態を監視して、OEE(設備総合効率)の最大化に貢献する「 OMNI edge」という IoTサービスは、マシンビルダーに加えて、より広範なマシンユーザーがお客様です。部品の故障の予兆を捉えて交換のタイミングを最適化することにより、お客様の機会損失を最小化することが一番のメリットです。メンテナンス要員など労働力不足への対応や不良品削減による省資源化・温室効果ガスの削減などの効果も見込めます。今後もお客様が直面する社会課題に貢献できるアプリケーションサービスを展開していきます。さらにマシンユーザーと直接の接点ができることによって、機械要素部品やアクチュエータの新たなニーズが出てきており、それらが幾つかの商品開発プロジェクトにもつながっています。

ものづくりサービス業
LMガイドをはじめとする機械要素部品ビジネスは当社の基盤です。この10年間はグローバルで景気循環的に大きく変動しながら成長する需要に対して、供給責任を果たし切れなかった苦い思いがあります。このため需要変化への即時対応と収益向上を重視し、設備の先行投資とそのボリュームに見合うサプライチェーン構築を積極的にしてきましたが、この1、2年の世界経済のブロック化が顕著になるにつれ、機械要素部品の需要が地域的にもタイミング的にも分散化するなか、これまで投資してきた設備やサプライチェーンを最適化し、顧客ニーズを満たしながら、収益性を向上させていくものづくり体制にシフトしていきます。そして高成長分野、新たに伸びる分野、新たな用途開発に注力し、機械要素部品ビジネスを成長させていきます。さらに、自働化、AI、IoT、ロボットの時代を迎え、制御までを含めたメカトロ・モジュール、そしてIoT・AIサービスの需要の拡大が期待されるなか、FAソリューションビジネスをしっかり立ち上げていきます。そして、機械要素部品とFAソリューションビジネスのシナジーをさらに高めることで、他社の追随を許さない、THKならではの事業を展開していきます。
一方、輸送機器事業は、ROIC(投下資本利益率)が資本コストを上回れないなかで、株主・投資家の皆様からは、期限を明確に定めた対応を求められてきました。そこで、構造改革期間の2026年度までに、これまでとは次元の異なる「選択と集中」を完遂し、その期待に応えていきます。

次世代人財を育成し、個々人の成長をTHK 全体の進化につなげていく

「ROE10%超」を早期に達成すべく、収益性と資本効率を重視した経営の道筋について主に語ってきましたが、もう少し中長期の時間軸で、サステナブルに企業価値を創造する土台作りにも注力しています。その核になるのは、「ものづくりサービス業」を担っていく次世代人財の育成です。
当社は人的資本の強化として、グローバル人財・デジタル人財の育成、研修などの育成施策の拡充、ダイバーシティの推進などに加え、ワークライフバランス向上への取り組みなどを進めてきました。さらにAIとの共存などを考えていくと「心の才能」が重要だと考えています。これはアーティスティックスイミングの日本代表コーチを務められた井村雅代さんが講演などで披露されている言葉で、会長をはじめ当社が大切にしている言葉です。自分の限界を決めず、自分の可能性を信じ、“何事にも前向きで素直に受けとめ、他人や環境のせいにせず絶えず努力をする才能”を意味しています。「心の才能」によって自分で自分自身を育てていくために、従業員に多様な経験を積んでもらい、自らの未知の才能に気づく機会や、能動的に学べる機会を増やしていきます。そして個々人の成長をTHK全体の進化へとつなげていきたいと考えています。
今から20年~30年後の社会では、AIやロボットも、自ら学習・行動して人と共生する存在になっているでしょう。THKは「ものづくりサービス業」として、これらの進歩したテクノロジーを巧みに活用しつつ、あくまでも人間がイニシアチブを握って、お客様の課題解決に挑み続ける企業を目指します。
まずは、新経営方針に掲げた「ROE10%超の早期実現」を一つの通過点にして、持続的に企業価値を向上できる基盤を形成していきます。これからのTHKに、より一層期待していただければ幸いです。